動物の命、人間の命・・・命の大切さを問い、人間と動物の共存を問う美しく切ない絵本
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ずっとそばに… (レインボーえほん) 著者:いもと ようこ |
幼い頃、両親を人間につかまえられて失ったくまさんは、森のうさぎやりす、きつねの孤児たちを大切に育てていました。自分の子どものように世話をして、寝るときも抱っこして、決して、ひとりぼっちにはさせませんでした。ひとりぼっちがどんなにさびしいかを誰よりもよく知っていたからです。
ある年の冬、山の木の実が全く実らず、食べ物が手に入らず、森の子どもたちがどんどん弱っていきました。子どもたちのために決心して人間の住む里に下りていったくまさんは、農家の庭先の柿の実をとりました。そのとき・・・
森の動物の子どもたちを守ろうとするくまさんのやさしさ、そして、息絶えたくまさんを見放さない森の動物の子ども達のやさしさ。人間が山里に住むようになって、山奥へと追いやられた動物達。くまさんの両親を殺したのも、くまさんを殺したのも人間。
「くまが出没、人間をおそった・・・」というニュースをきくたび、私は胸が痛みます。くまが住む山へ人間が侵入し、木は切られ、別荘がどんどん建てられています。山の動物性たちは、どこに住めばよいのでしょうか・・・?人間も動物も同じ生き物です。人間の命、動物の命、どちらの命も同じ命です。人間と動物が共存できるよう・・・私たちは考えねばなりません。」という作者のあとがきに深く共感しました。
ほのぼのとした絵の世界の中に、動物たちのやさしさと動物たちが置かれている過酷な環境が描き出され、人間の残酷さが浮き彫りにされます。また、どんな過酷な環境であっても「ずっとそばに」居てくれる存在があれば幸せです。それは、森の動物たちも私たち人間も同じでしょう。幼い子どもたちの心にも作者のメッセージが確かに届くことでしょう。
「ねこの絵本」「そばのはなさいたひ」でボローニャ国際児童図書展エルバ賞2年連続受賞、「いもとようこうたの絵本 1」で同展グラフィック賞受賞した作者ならではの力量が感じられる美しく切ない絵本です。幼い子どもたちに向けて書かれた絵本ですが、読み終えたとき、一人の大人として、かけがえのない命、かけがえのない存在について問うことを促されました。
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