壮大なアラスカの自然や動物、植物たちを写した写真の合間に、心の奥底まで響くような言葉がちりばめられているエッセイ集ーこれからの世界を担う青年たちにお勧めの一冊 『ぼくの出会ったアラスカ 』
星野道夫さんが撮影した写真と、1985年〜1997年に発表したエッセイにより構成された文庫本。星野さんのアラスカとの出会いを中心に構成されている。
「物質的な富を求め、テレビに浸り、本当の世界に触れようとしない多くの人々を理解できなかったという」若い女性のウイロー。
「風のようにひょうひょうとして、まったく陽気な男なのに、彼の美しい視線はいつも相手の心の奥底を優しく見透かしていた。その美しさはある深い闇を超えてきたまなざしでもある。」ベトナムの帰還兵であるウィリー。
星野さんの語るアラスカの若者を通して、自分がいかに薄っぺらい世界で生きているかを認識させられた。物質的な富こそ求めないし、テレビにも浸らないが、本当の世界に触れようとしない多くの人の一人である自分の姿が浮き彫りにされる。そして、深い闇を避けて生きている自分を思った。
「木も 岩も 風さえも 魂をもって、じっと人間を見据えている」というインディアンの神話の一節が引用されている。
今、生きている環境に居心地の悪さを感じるのは、木や岩のような魂をもって、じっと見据えてくれる存在が乏しいからではないだろうか。
「行く先が何も見えぬ時代という荒海の中で、新しい舵を取るたくさんの人々が生まれているはずである。アラスカを旅し、そんな人々に会ってゆきたい。」と語る星野道夫さんの言葉に応え得る人々が日本に何人いるのであろうか。
壮大なアラスカの自然や動物、植物たちを写した写真の合間に、心の奥底まで響くような言葉がちりばめられているエッセイ集、これからの世界を担う青年たちにお勧めの一冊。
| 固定リンク
「<一般書>」カテゴリの記事
- 『発達障害 母たちの奮闘記』~無理解の壁に挑み、発達障害の本質的な理解を促す良書 (2011.07.27)
- 平和への祈りと明日への希望 ~「テレジンの小さな画家たち詩人たち」~@北九州(2010.08.07)
- 『障害の重い子とともにことばを育む』(学苑社)(2009.08.21)
- イタリア児童文学の傑作古典『ジャン・ブラスカの日記』―「君たちは、自分の心と体で感じ、考え、行動せよ」 誕生100年を経て物語の真価を問う(2009.07.31)
- 三田誠広著『星の王子さまの恋愛論』(集英社文庫) かんじんなことは目に見えない サン・テグジュペリの恋愛論(2009.03.18)
「[命、死、魂]」カテゴリの記事
- (山田由香・文/高野文子・絵)『動物園ものがたり』(くもん出版)(2010.08.30)
- 丸田かね子・文/牧野鈴子・絵『はこちゃんのおひなさま』書評(@bk1)(2010.02.28)
- 美しい日本の伝統文化「ひなまつり」『はこちゃんのおひなさま』絵本原画展@銀の鈴ギャラリー(鎌倉)(2010.02.21)
- 三田誠広著『星の王子さまの恋愛論』(集英社文庫) かんじんなことは目に見えない サン・テグジュペリの恋愛論(2009.03.18)
- ケイト・ディカミロ『愛をみつけたうさぎ エドワード・デュレインの奇跡の物語』(2009.03.12)
コメント