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2009年1月30日 (金)

信じるとは命をかけた選択  『銀のほのおの国』

 壁に飾られた剥製のトナカイ「はやて」が甦り、たかしとゆうこの兄妹が、壁の向こうの異世界にひきずりこまれ、北の荒野を駆け抜けるトナカイ「はやて」を追って旅立つ。
 無慈悲で残酷な青イヌの影におびえながら続く旅の途中で、ゆうこが青イヌの囚われの身になる。「はやて」のいるはるか北の山脈めざして困難な旅を続けるたかしは、ゆうこの身を案じながら、誰にも助けを求めることができない結界状態に向き合い、自らの判断を要求され、生存の厳しさ(困難な状況と荒野の掟)の中で、自らの行為の選択を余儀なくされ、何を信じるかを問われる。
 盲目のウサギ銀の耳が歌い伝える「銀のほのおの国」—荒野に住む小さな動物たちが待ちのぞむ「トナカイ王国」の甦りをかけて、トナカイ軍と青イヌ軍が最後の戦いのときを迎えることに・・・。

 同著を大人になって初めて読んだ。
 40代という体力的にも能力的にもいろんな面での衰えが進む年代を生きながら、これまでの人生を振り返り、自分が断念せざるを得なかったことに対する負い目や無力感、そして、これからの人生で何ができるのだろうかという問いに対し、自らの限界に向き合う日々である。自分自身の人生の選択を良しとして、否定的な感情をいかに次なる人生のよりよい選択に向けるか。まさに、ツンドラを歩むような心理状況の中で、『銀のほのおの国』と出会った。

 この物語の主人公である兄妹のたかしとゆうこが送り込まれた壁の向こうの世界の出来事を通して、命をかけた選択や苦悩には必ず答えが与えられるということを確信させられたような気がする。そして、どんなに否定的な感情に満ち、エネルギーが枯渇しているかに見える状況にあっても、人間には次なるステップを歩み始める銀色の炎のような揺らめきがあり、生きてゆけるものだということを教えられたような気がする。
 『銀のほのおの国』を読み終えて、人生の選択には常に厳しさが伴うが、自分が信じる道を歩めば、それでよいのだという思いを、今、密かにかみ締めている。

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