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2009年1月30日 (金)

疾病や障害の逆説的な役割・創造的な力を語る 『火星の人類学者』

 私の娘は点頭てんかんという重い病を抱えて生まれてきました。知的な障害を抱えながら、今年で20歳になります。オリヴァー・サックス博士の医学的エッセイ集『火星の人類学者』の「はじめに」で、博士が「欠陥や障害、疾病は潜在的な力を引き出して発展、進化させ、それがなければ見られなかった、それどころか想像もできなかった新たな生命の形を生み出すという逆説的な役割を果たすことができるのである。」と述べている言葉に、母親として大きく励まされました。

・事故ですべてが白黒に見える全色盲に陥った画家
・脳腫瘍により、新たな記憶が刻めなくなってしまった青年
・激しいチックを起こすトゥレット症候群の外科医
・白内障の手術により視力を回復し「見ること」を学習する元盲人
・故郷の風景の詳細な記憶から絵を描き続けている画家
・自閉症の天才的な少年画家
・「わたしは火星の人類学者のようだ」と自ら述べる自閉症の動物学者

 脳神経に障害をもつ七人の患者の病状を臨床的かつ客観的に語りながら、同著のテーマである疾病のパラドックス、つまり疾病の「創造的な」力を、浮き彫りにしてゆきます。
斬新なテーマもさることながら、博士が、障害を抱えて生きるそれぞれの内面世界を深く洞察していることが、この本の最大の魅力かもしれません。客観性に裏づけされた洞察に、博士の医学的な探究心のみならず、深い人間愛を感じさせられました。博士の文章力(描写力)もすばらしいです。
 

 生後10ヶ月で点頭てんかんと診断された時は、「歩くことも話すこともできないでしょう。」と言われた娘が、演劇のサークルに所属して、舞台に立っていますし、水泳ではマンツーマンの指導を受け、障害者の水泳大会でメダルをいただいています。娘が障害を抱えながら育ってゆく姿を通して、人間の脳の補償作用のようなものを漠然と感じていましたが、同著を読み、現代の脳科学では証明できない脳の働きに対して確信を持ちました。

 娘と生きている中で、「障害」と「健常」との違いなんてあるのだろうか。人間皆、何らかの障害を抱えて生きているのではないかと感じることがしばしばです。また、障害を治すことを目的とした学校教育のあり方に疑問を抱いたこともあります。
 脳神経に障害を抱え、不可思議な症状に悩まされながら、その障害とともにアイデンティティを築き、自分なりの人生を創造的に歩んでいる7人の生き様を通して、障害を治療や訓練の対象とのみ見なすのは誤りではないかと感じました。博士が語る7人の姿は、人間とは、また、生きるとは・・・と哲学的な問いに対する示唆にもなり得るのではないでしょうか。

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