『地球交響曲』への理解を深めるために、お勧めのエッセイ集 『地球をつつむ風のように』
『地球交響曲』の上映会のポスターを目にするようになって10数年が過ぎ、ようやく2005年末に第四番を観ることができた。まさに、これぞ私が体の、また、心の奥底から求めていたメッセージではないかと思える出会いだった。
もっと地球交響曲について知りたいとの思いから、監督の著書を読むことにした。最初に読んだのが本書である。「交響曲を奏でる魂の友へ」、「子供たちに伝えたいこと」、「風の原点を見つめて」の三章よりなるエッセイ集。『地球交響曲 第四番』の完成を前に刊行されている。
冒頭に『地球交響曲』とは、「太陽系の第三惑星である地球は、それ自体が一つの大きな生命体としての仕組みをもっており、我々人類はもちろんのこと、動物も虫も草も木も風も水も岩もすべてが有機的につながった大きな生命として、三十五億年の歳月を行き続けている。」というイギリスの物理学者ジェームズ・ラブロック博士のガイア理論に込められている「我々は地球の大きな生命の一部として生かされている」という謙虚な気持ちへの共感が原点となり、1989年から龍村仁監督により撮り始められた映画であることが述べられている。
『地球交響曲』というタイトルには、「スピリチュアル・ドキュメンタリー」という造語が監督により付されているが、「スピリチュアル」という言葉は、「二十一世紀を迎えようとする今、科学の進歩がもたらしてくれる恩恵を充分に知り、世界を科学的・唯物的に理解する方法を身につけたうえで、なおかつ、そのような方法ではとらえきれない何か宇宙的な、あるいは超自然的な見えない力の存在に気づきはじめた人々の魂のあり方」という意味で用いられている。つまり、『地球交響曲』とは、世界中の「スピリチュアル」な体験をもつ人々のメッセージをガイア理論を原点としてオムニバス風につづった映画であると言える。
「交響曲を奏でる魂の友へ」の章では、『地球交響曲第三番』に登場を予定していた写真家・星野道夫氏の不慮の死に対する友人達の思いと監督の思いが交錯するように語られていて印象深い。「子供たちに伝えたいこと」の章では、自らの子ども時代を振り返りながら、人間が本来あるべき姿や教育への思いが語られている。ダライ・ラマをめぐるチベットの子ども達の「愛されている確信」が印象に残った。「風の原点を見つめて」では、NHKのディレクターを免職になるまでの過程と『地球交響曲』への思いが誠実につづられている。
柔軟な心と鋭敏な感性を磨き、自分の理解をはるかに超えた存在からの声に耳を傾けている監督の生き様に心惹かれる。「複雑な人間関係の喜び、恐れ、悲しみとはまったく異なる次元で人は何か大きな力に生かされているのだ」という思いを幼い頃の日向ぼっこの中で感じた監督は、そのことを『地球交響曲』を通して、体を張って伝え続けている。
『地球交響曲』の美しい映像に込められたメッセージが、押し付けがましくなく、読者である私たちの心に心地良い風として感じられた。『地球交響曲』への理解を深めるために、お勧めのエッセイ集。
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