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2009年2月 2日 (月)

梨木香歩さんの語りと早川司寿乃さんの絵によって、現代に甦った「木花咲耶姫」、花の香りとさみどり色に満ちたさわやかな一冊  『マジョモリ』

 大きな山の麓に神社と森がありました。その森は、大人達からは「御陵」と呼ばれ、子ども達からは、「まじょもり」と呼ばれていました。神聖な場所として、中に入ることを禁じられていた子ども達は、こっそりとどんぐりを拾いに入ったりしていましたが、外の世界とつながっている範囲くらいまでしか入ったことがありませんでした。

 大きな山の麓にある「まじょもり」の冬は寒く、春になってもなかなか花が咲きません。そして、花が咲き始めると梅と桃と桜と、ほとんど同時に咲き、見事なものです。

 神社の神官の娘であるつばきのもとに、ある朝、届いた招待状「まじょもりへ ごしょうたい」。招待状を読んでいると、空色の不思議な植物のつるの先が、コンコンとつばきの部屋の窓ガラスをたたき、するするとつばきを森へと導きます。つばきの家の道の向こうが「まじょもり」です。

 暗い森に目が慣れた頃、樹木の香りが濃くなったところに、急に日が射している場所がありました。草や木が生えていなくて、こんもりと盛り上がった土の上に、片膝を立ててあぐらをかいてすわっている女性がいました。
 するすると伸びた空色の植物のつるは、その女性の髪の毛でした。退屈そうに髪を片手で梳いています。髪の毛はうすみどり、全体に白っぽくみえる若い女性でした。

 初めて入った森の奥で、出会った不思議な女性ハナさん、そして、もう一人の招待客ふたばちゃん。花が満開の「まじょもり」でハナさんとノギクやカキやサクラのお茶でパーティーが始まりました。
 ヨモギのお茶は野原の味が、ノギクのお茶は夕暮れの味が、カキのお茶は日なたの味が、サクラのお茶は森の味がしました。お茶のお菓子は、神饌、つばきが家から持ってきた生クリームやピーナッツバター、ジャムをはさんで食べます。

 ハナさんが初めて食べた生クリーム…ハナさんは、クロモジの小枝でぱくんと一つ口に入れ、空を見上げ、それから、目を閉じました。ガクンと頭を垂れたかと思うと、両方の手を拳につくり、それをぐっと前に差し出します。食べるごとに同じ仕草を繰り返すハナさん。
 「一ヶ月あれば」その味が好きか、嫌いかがわかると言います。

 ハナさんがお茶の後に出してくれた笹酒、「固く巻いた笹の芽が、初めてくるくるほどけたところに溜まった朝露を集めたもの」…つばきにとって、こんなに気持ちのすっとする飲み物は初めてでした。
 ジュースではない、お酒でもない、炭酸とも違う、甘ったるいところがまるでないのに、体中がそれを待っていたように飲み干しました。
 ふたばちゃんは、「甘露、甘露」と言って飲み干しました。つばきもハナさんも「甘露甘露」と続きます。

 さて、ハナさんは生クリームの味を気に入ったのでしょうか。そして、ふたばちゃんって、誰? ハナさんは、魔女なの? つばきちゃんは、どうやって家に戻るのでしょうか。それは、この絵本を読んでからのお楽しみです。表紙の絵の葉っぱの中の鍵穴をのぞくように、「まじょもり」の世界をのぞいてみませんか。

 梨木香歩さんは、「つばきは、だんだん、だんだん、頭がくらくら、ふらふらしてきました。そしてなんだか、地面がいつもの地面でないような気までしてきた、と思ったら…」のように、家のそばの森の人間の世界から別世界へと入るときの様子をさりげなく語っています。そして、早川司寿乃さんの絵は、写実的な絵からシュールな絵へと変わります。
 梨木香歩さんの語りと早川司寿乃さんの絵によって、現代に美しく甦った「木花咲耶姫」、花の香りとさみどり色に満ちたさわやかな一冊です。

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