« 梨木香歩さんの語りと早川司寿乃さんの絵によって、現代に甦った「木花咲耶姫」、花の香りとさみどり色に満ちたさわやかな一冊  『マジョモリ』 | トップページ | 小型武器について、子ども達に分かりやすく解説した絵本  『小型武器よさらば 戦いにかり出される児童兵士たち』 »

2009年2月 2日 (月)

梨木香歩さんの語りと木内達郎さんの絵の絶妙なコンビネーションによる蟹塚の由来ー二世代にわたる恨みが昇華されてゆく哀しく美しい物語  『蟹塚縁起』

 むかしむかし、薮内七右衛門という武将がいました。何千人もの兵を率いて戦っていた七右衛門は、家来たちをそれはそれは大事に思っていました。 七右衛門は、大事な家臣が人質にとられたと知った時、敵の罠とは知りながら、駆けつけたのです。
 他の家来たちも次々に打たれ、兵たちの屍が累々としている中、続けざまに敵の矢を受け、愛馬松波丸もろとも、同田貫正国という九尺五寸の刀を握り締めたまま、どうっとばかりに地面に崩れ落ちました。七右衛門は、「ああこの土と、もっと親しんで、生きたかった…」との思いを遺しながら、息絶えてゆきました。無念の戦死でした。

 七右衛門の思いは、同じ土地にとうきちという農民の子として生まれ変わりました。前世を語る旅人・六部…とうきちに前世の記憶が鮮明に甦る出来事が起こります。
 沢蟹をいたぶる名主の息子を諭して、沢蟹を救った日、名主から農作業に欠かすことの出来ない牛を取り上げられました。両親が亡くなってひとりぼっちのとうきちにとって、牛は、たったひとつの財産でした。
 牛のいない農作業を終え、へとへとに疲れて横になるとうきちの枕の下から聞こえるざわざわという音…外に出てみると、大勢の沢蟹が小川から家の床下を通って、青い月明かりの下を、 長い長い帯のようになって、どこまでも続いてゆくのでした。
 …あなたがその恨みを手放さぬ限り…という旅人六部の声と同時に遠い遠い記憶がよぎります。遠い昔、月の山野をこういうふうに大勢で歩いたことを思い出しました。

 同じ日の夕方、「押しかけ嫁でござります。」と横歩きをする女が、とうきちの家に現れ、掃除をしたり、夕餉の支度をしたりしています。とうきちは、「さてはおまえは蟹じゃろう」と言って、自分は大丈夫だから早く巣に帰るようにと声をかけます。すると、「私どもの気が済みませんので」と言って、あっというまに崩れ落ちて小さなたくさんの蟹となり散ってゆきました。鍋の蓋を開けると、ドジョウにタニシ、セリにゴボウが入っていました。
 蟹らしいことよ…と思いながら、有難く鍋をいただいたとうきちは、はっと思うところがあって、名主の館へと急ぎます。さて、それからは、この絵本をお読みください。

 梨木香歩さんの語りが七右衛門ととうきちの人柄の良さを、木内達郎さんの暗い色調の不思議な絵が、七右衛門とその家来たちの無念の思いを見事に語り描いています。二人の絶妙なコンビネーションによる蟹塚の由来、二世代にわたる恨みが昇華されてゆく哀しく美しい物語です。
 

|

« 梨木香歩さんの語りと早川司寿乃さんの絵によって、現代に甦った「木花咲耶姫」、花の香りとさみどり色に満ちたさわやかな一冊  『マジョモリ』 | トップページ | 小型武器について、子ども達に分かりやすく解説した絵本  『小型武器よさらば 戦いにかり出される児童兵士たち』 »

005 梨木香歩」カテゴリの記事

<大人の絵本>」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1160312/27702620

この記事へのトラックバック一覧です: 梨木香歩さんの語りと木内達郎さんの絵の絶妙なコンビネーションによる蟹塚の由来ー二世代にわたる恨みが昇華されてゆく哀しく美しい物語  『蟹塚縁起』:

« 梨木香歩さんの語りと早川司寿乃さんの絵によって、現代に甦った「木花咲耶姫」、花の香りとさみどり色に満ちたさわやかな一冊  『マジョモリ』 | トップページ | 小型武器について、子ども達に分かりやすく解説した絵本  『小型武器よさらば 戦いにかり出される児童兵士たち』 »