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2009年2月 2日 (月)

二世代にわたってペンキ屋という一生の仕事をやりとげた父親と息子、そして、その仕事を見守った母親とその妻を巡るファンタジー人間の愛と天職をテーマとした味わい深い絵本  『ペンキや』

 しんやは、母親からペンキ屋であった父を「発見」した時の話を聞くのが好きでした。そして、幼い頃からペンキが大好きでした。
 成長したしんやは父親と同じペンキ屋を目指して修業中。仕事となると見た目よりもずっとむずかしいものです。才能がないのではないかと悩むしんやは、母親から聞かされた父の墓を訪ねてフランスへと旅立ちます。お墓には「ふせいしゅつのペンキや ここにねむる」と書いてあることを聞かされていました。

 父親が乗ったのと同じ船のなかで、皿を洗ったり、ジャガイモをむいたり、甲板掃除をしたり…お金が無いので、船の中でいろいろな仕事を引き受けていました。朝焼けの海、夕凪の海、そして漆黒の闇…甲板掃除をしているしんやが見つめる海の色がステキです。

 ある日の午後、甲板に這ってきた霧の中から白いマントを着た不思議な女の人が出てきました。髪はまっすぐの亜麻色、陽に灼けているせいかまるで霧のように白く見えます。服もぞろりとした生成り色のような白いマントです。その人は「若いペンキやさん」としんやに呼びかけました。父親がペンキやであったことも知っていました。この船をユトリロの白で塗るようにとしんやに頼みます。
 不思議な女性が頼んだユトリロの白とは、「喜びや悲しみ、浮き浮きした気持ちや、寂しい気持ち、怒りやあきらめがみんな入った白」そして「世の中の濁りも美しさもはかなさもみんな入った白」だと言い残して霧の中に消えてゆきました。

 フランスへ行ったしんやは、父親のお墓を見つけることができないまま、日本へ帰って塗装店を開きました。初めてのしんやのお客さんだったゆりさんと結婚して、子どもを育て、お客のもっとも望む色を探し出し、人々を幸せにするペンキ屋となったしんやのもとに再び現れた不思議な女性は…。

 不思議な女性を登場させることを通して、物語がファンタジーへと昇華しています。「ユトリロの白」をモチーフにすることを通して、ペンキやという職業を芸術の域に高めています。
 出久根育さんの絵の中で、しんやとその父親、ゆりさんとしんやの母親の二世代にわたる喜びや悲しみ、世の中の濁りや美しさ、ファンタジーと現実が交錯して不思議な魅力を醸し出しています。

 二世代にわたってペンキ屋という一生の仕事をやりとげた父親と息子、そして、その仕事を見守った母親とその妻を巡るファンタジー。お墓に書かれた「不世出のぺんきや ここに眠る」という文字は、しんやの母親としんやの妻であるゆりさんにしか見えませんでした。ユトリロの白で書かれているように見えるのは、私だけでしょうか。
 梨木香歩さんの巧みな語りと出久根育さんの不思議な絵の中で、人間の愛と天職について深く考えさせられました。味わい深い絵本です。
 

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