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2009年7月31日 (金)

イタリア児童文学の傑作古典『ジャン・ブラスカの日記』―「君たちは、自分の心と体で感じ、考え、行動せよ」 誕生100年を経て物語の真価を問う

  ジャン・ブラスカは、イタリア人なら誰もが知っているピノキオに次ぐ有名な児童文学作品の主人公です。『ピノッキオの冒険』や『クオーレ』と並ぶイタリアの国民的児童文学の永遠の名作である『ジャン・ブラスカの日記』は、物語誕生から100年を経て、再び脚光を浴びています。本書は、その初版挿絵を再現した池上俊一氏による初の全訳。
 両親と3人の姉と暮らすジャンニーノ・ストッパーニは、9歳の誕生日に母さんからもらった日記帳に絵日記を書き始めました。ジャンニーノは、筋金入りのいたずらっ子で不本意にも大人たちからジャン・ブラスカ(台風のような悪ガキ)と呼ばれています。
 日記帳は次から次に繰り広げられるジャンニーノのいたずらに満ちています。9歳の少年の無邪気な言葉で語られるいたずらの数々に笑ったり、驚いたり、冷や汗をかくような思いを味わったりしながら、文庫本で439ページに及ぶ長い物語をあっという間に読み終えてしまいました。

  いたずらの場面は、家庭内から地域、親戚の家、そして、寄宿学校、政治の世界へと展開していきます。ジャンニーノには、悪意がなく、無邪気なゆえに、全てのいたずらがばれてしまい、大人のお目玉を食らうことになってしまいますが、家族を困らせているだけならまだしも、伯母さんの家の近くの農家の家畜にペンキを塗ってワニやライオンに変身させ、挙げ句の果て、農家の赤ん坊までサルにしてしまい、木の枝にロープで吊り下げて「動物の檻」を作ったり、手品ショーをやっている最中に来客の帽子を卵だらけにして台無しにした上におもちゃのピストルで帽子を打ち抜こうとして、後にヴィルジーニア姉さんの夫となるマラッリ氏の目を打ち、失明寸前のけがを負わせたことも…。寄宿学校に入ってからは、友人たちと秘密結社を作り、圧政者である校長夫妻に復讐劇を繰り広げたり…、そのいたずらは時に残酷を極めてしまいます。特に姉婿で弁護士、社会党員であるマラッリ氏へのいたずらは、その政治的地位を損なうほど致命的なものでした。
 大人の読者としては読むに堪えない場面もありましたが、読後感はなぜかさわやかなのです。全てのいたずらに、創作とは思えないほどに、子どもの純粋な内面が映し出され、結果として大人の世界の不条理をあぶり出すという爽快感があるからかもしれません。
 物語展開の巧みさやユーモア、言葉の軽快さが魅力です。そして、物語の奥に秘められたヴァンバの政治的なメッセージも見逃せません。児童文学作品としては過激な内容であることを越えて、作家であるヴァンバの子どもたちへの深い愛を感受しました。物語である日記の行間から「君たちは、自分の心と体で感じ、考え、行動せよ」というヴァンバの声が聞こえてくるようでした。
 翻訳者である池上俊一氏の豊かでセンスの良い日本語により、原作の魅力が損なわれることなく完訳されていることを感じました。時代背景や児童文学としての意義などを詳細に記した「訳者あとがき」も読み応えがあります。
 『ジャン・ブラスカの日記』は、イタリア国家統一運動の昂揚する19世紀、ジャーナリスト兼作家であったヴァンバが自ら主宰する子どもの読者参加型の『日曜新聞』に1907年2月~1908年5月まで55回にわたって掲載した物語です。未来のイタリアの指導者層を育成したいとの願いを込めて書かれた物語ですが、単行本として発刊された当初は、「子供たちに有益な教訓を与えるどころか、いたずらと大人への不服従を推奨し、家族を崩壊させ社会を混乱に陥れる、児童文学にあるまじき悪書ではないか」(本書p.449より引用 )という批判を浴びていたようです。
 確かに、『ジャン・ブラスカの日記』には道徳や教訓は全く感じられません。むしろ、子供達に強制的に課された道徳や教訓に対する反発の思いから生み出された物語と言っても過言ではないのかもしれません。また、ヴァンバの尽きないいたずらの発想は児童文学の世界が抑圧してきたものへの挑戦とも思えます。イタリア国民に長く愛された作品の真価が、今、読者である私たち一人一人に問われているのかもしれません。

(以上、ほのぼの文庫管理人まざあぐうすがbk1に投稿したレビューです。2009年8月7日オンライン書店ビーケーワン書評ポータルにて今週のオススメ書評に採用されました。)

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