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2010年4月

2010年4月23日 (金)

子ども達に国際理解を促し、戦争と平和について考える機会を与えてくれる絵本

 ともだちのしるしだよ ともだちのしるしだよ
販売元:セブンネットショッピング(旧セブンアンドワイ)
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 緑のない山々、砂煙があがりそうな土、立ちならぶ粗末なテント…。
 絵本の舞台はアフガニスタンとパキスタンの国境にあるベシャワールの難民キャンプ。表紙には、頭をスカーフで覆った二人の女の子が一足のサンダルを片足ずつはいて仲よく歩いている姿が描かれています。
 名まえは、リナとフェローザ、二人は救援物資の中から偶然同じサンダルを片方ずつ手にしました。リナは戦争で父と姉を亡くし、幼い弟を背負って母親と逃げて来ました。もう2年間も靴をはいていませんでした。フェローザは家族を戦争で亡くし、祖母と二人だけ、その足はひびわれて腫れていました。
 「はじめまして、こんにちは」とあいさつするリナにフェローザはことばを返すことなく姿を消しましたが、翌朝、「かたほうだけはいているなんて へんだって、おばあちゃんが いうの」と言ってリナにサンダルを手渡しにきました。そんなフェローザに、リナがサンダルを二人で交互に履くことを提案します。その日から一足のサンダルが二人の少女の間で「ともだちのしるし」となりました。
 毎日いっしょに並んで水汲みをしたり、地面に字を書いて勉強したり、テントの中で思い出や夢を語り合ったり…、難民キャンプという過酷な環境の下で一足のサンダルを分け合いながら育まれた友情の物語、作者の一人であるカードラ・モハメッド(米国ペンシルヴァニア州のピッツバーグ難民センター所長)の実体験から生まれました。
 遠景の山々の壮大なシーンから、救援物資を求めて並ぶ人々の足、わずかに流れる水、限られた井戸から水を汲む人々がそれぞれクローズアップして描かれ、難民キャンプの極限状況を生き抜く幼い二人の健気な姿がリアルな質感と温もりをもって伝わってきます。アメリカにわたることが決まったリナとキャンプに残るフェローザの別れのシーンは圧巻です。戦争で何もかも失い、疲れ、傷ついたであろう幼い二人の心に宿る確かなやさしさと思いやりに胸を打たれました。

 本書は板橋区立「いたばしボローニャ子ども絵本館」主催の翻訳コンクールで第15回「いたばし国際絵本翻訳大賞最優秀翻訳大賞」を受賞した作品です。翻訳者である小林葵氏は1992年生まれ、受賞当時、現役の高校生でした。リナとフェローザのことばがいきいきと伝わってくるのが魅力のひとつでしょう。英語の原題は「Four Feet, Two Sandals」、たった一足のサンダルを分け合うという二人の純粋な心を象徴しています。「ともだちのしるしだよ」はリナのことば、絵本の邦題としてふさわしいことばではないでしょうか。子ども達に国際理解を促し、戦争と平和について考える機会を与えてくれる絵本です。
 本書は社団法人全国学校図書協議会主催の第56回青少年読書感想文全国コンクール課題図書の小学校中学年に選定されています。日本の多くの子ども達に、戦争によって、友だちや家族とわかれ、故郷をはなれなければならない難民の子ども達のことを心に深く留めてほしいと思います。

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2010年4月17日 (土)

第一回はせみつこの詩のカルチャー @両国シアターXカイ

 今日は、うりぽ・ハセ・カンパニー&舞藝舎主催の第一回はせみつこ詩のカルチャーに参加しました。はせの会主催のはせサロン@自由学園明日館から一年ぶりに女優のはせみつこさんを囲む詩のサロンです。

 プログラム

 第一部 

  •  こどもの詩 「おひさまのかけら」より 
  •  近代詩 初恋(藤村)、サーカス(中也)、猫(朔太郎)
  •  現代詩 ごびらっぷの独白(心平)、男の敵(谷川俊太郎)

 ティータイム

 第二部

  •  自己紹介&おしゃべり
  •  ワークショップ
  •  道(谷川俊太郎)

Photo_2  はせさんが演じる(朗読ではありません!)詩は、はせさんが暗記した言葉というより、はせさんの血肉となった言霊として、心に深く響きます。私は、はせさんの演じる中也のサーカスや心平のごびらっぷの独白が好きです。「おひさまのかけら」から選ばれた子ども達の言葉は、とりたてのお野菜やくだもののような新鮮さで心に届きました。まさに詩の原点だと思います。第二部の自己紹介では、それぞれのはせみつこさんとの関わりが手短に語られ、はせさんのフィールドワークの広さを感じさせられました。

 終わりの方で、「おひさまのかけら」で紹介された子ども達の言葉は「詩」ではないですよね?という質問があり、時間切れで、次回のテーマとして持ち越されました。次回は5月15日(土)です。

Music おひさまのかけら

アーティスト:波瀬満子
販売元:フォンテック
発売日:2004/06/21
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2010年4月11日 (日)

戦火を逃れたお雛様

 4月10日(土)、児童文学作家の日野多香子先生と絵本『はこちゃんのおひなさま』の作家である丸田かね子さんと3人で、須坂市にある小池千枝コレクション 世界の民族人形博物館を訪れました。

 丸田さんが同館に寄贈されたお雛様の写真です。 Photo_4

はこちゃん(丸田かね子さん)の疎開先のおじさんの家に届けられたことで東京大空襲の戦火を逃れたお雛様です。昭和20年代のお雛様ですが、きれいなまま保存されていました。

  戦争から60年あまり経た今、丸田さんの絵本の中で甦り、こうして世界の民族人形博物館のショーケースの中で毎年、この時期に展示されることになったお雛飾り。

 ショーケースに入ったお雛様を見ながら、幼かりし日の丸田さんにお雛様を託された不思議な計らいを感じ、絵本もお雛様も後世に残って欲しいと思いました。

 きっとお雛様も喜んでいることと思います。同館では、折しも三十段雛飾り 千体の雛祭りの会期中にて、高さ6m、30段の雛壇とつり雛100本の約1千体のひな人形が展示されていました。

30 写真は三十段雛飾り、見事な美しさでした。でも、どうやって飾ったのかしら?と整然と並べられたお雛様を上の階の喫茶室から眺めました。

 館内には、古くは享保雛から、昭和初期のお雛様、そして、現代のお雛様まで、1000体近くのお雛様が展示されていました。たくさんのお雛様に囲まれて、女の子に戻ったような気分を味わいました。

 善光寺にお参りして、近くにある長野県信濃美術館 東山魁夷館に立ち寄りました。

 長野では桜が咲き始め、あたたかい一日、お雛様や東山魁夷の絵画の美しさと咲き始めた桜や満開の杏の花を眺めて、心が満たされた一日でした。

 絵本『はこちゃんのおひなさま』のアルバムはこちらです。

追記:『はこちゃんのおひなさま』が全国学校図書館協議会の選定図書に加えられました。 

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2010年4月 9日 (金)

グリム童話の魅力が現代に脈々と生き続けていることを感じさせてくれる絵本

ヘンゼルとグレーテル―グリム兄弟の童話から Book ヘンゼルとグレーテル―グリム兄弟の童話から

著者:ヤーコプ・ルードヴィヒ・グリム,ヴィルヘルム・カール・グリム
販売元:平凡社
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 19世紀の初めにグリム兄弟が人々の間に語り伝えられてきた話を集めて書きしるした『グリムの昔話』(原題:子どもと家庭のメルヘン)には200あまりの話がおさめられていますが、「ヘンゼルとグレーテル」は、その中でも代表的な話のひとつです。
 「ヘンゼルとグレーテル」と言えば、まず、お菓子の家、ヘンゼルをかまどの火で焼いて食べようとする怖ろしい魔女、二人の子ども達を森の奥に捨てる残酷な継母、そして、その背景にある貧しさと飢え…。

 本書の画家カトリーン・ブラントは、1967年に最初の絵本『こびととくつや』を出版し、翌年ドイツ児童図書賞を受賞、2004年に『魚師とおかみさん』を出版後、長い年月を経て、本書の挿絵を描きました。
 ブラントは、お菓子の家を色とりどりの美しいお菓子ではなく、ドイツのレープクーヘンという伝統的な焼き菓子を用いて地味に描いています。そして、絵本の背景を真っ黒に塗りつぶし、当時の貧しく、過酷な環境を暗示しています。
 二人をつかまえた魔女は、どこかしらまぬけな表情をしています。幼いグレーテルにかまどの火で焼かれてしまうのですから、本当にまぬけな魔女だったのでしょうか。
 ヘンゼルとグレーテルの二人が継母のたくらみを知った時のおびえ、暗い森の中を歩く時の不安、森に置き去りにされた時の悲しみ、魔女に見つかったときのおどろき、魔女から解放された時の喜び…ブラントは二人の子ども達の表情、特に目の表情をくきやかに描いています。二人の父親であるきこりの姿や継母の姿は描いていません。二人の子ども達の姿を通して、『ヘンゼルとグレーテル』は、飢えや貧しさに出会って二人が自立し、成長していく物語であることを浮き彫りにしたかったからでしょうか。物語の全てを描かず、読者の想像に委ねた作者の懐の大きさを思いました。
 二人を森の奥の魔女の家に導く白い鳥、また、二人が森をぬけ出すために大きな川を渡るのを助ける白いあひる(異界と現実世界の橋渡しをする鳥の役割)、兄のヘンゼルに頼り切っていた妹のグレーテルが機転を利かせ、兄を救い、森から抜けだした時のいきいきとした笑顔や背景の黒と白のコントラストを通して『ヘンゼルとグレーテル』の物語に込められたメッセージがシンプルかつ十分に描き出されていることを感じます。
 人々の口から口へと語り継がれた物語を再話するにあたって、現代を生きる私たちの心に届くシンプルで洗練された言葉に翻訳されていることも本書の特長でしょう。グリム童話の魅力が現代に脈々と生き続けていることを感じさせてくれる絵本です。

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2010年4月 5日 (月)

2009年に刊行された絵本のガイドブック 絵本の今を知りたいあなたへ、また、絵本を深く広く味わいたいあなたへお薦めの一冊

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この絵本が好き!〈2010年版〉 Book この絵本が好き!〈2010年版〉

販売元:平凡社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 本書は、「別冊太陽」の絵本シリーズの中で2003年度版から始まり今年で8年目を迎える毎年恒例の絵本ガイドブック。
 「2009年の絵本ベスト28(国内絵本13冊/海外翻訳絵本15冊)」の発表と総評、そして、「絵本好き108名のアンケート」の一挙掲載をメインとして、「現代の絵本界を牽引する作家たち 太田大八 モーリス・センダック」や<没後三十年> 「瀬田貞二の絵本世界」の特集の他、特別企画「絵本のことば」や追悼記事(かがくいひろし・滝平二郎)など、2009年に刊行された絵本の情報が満載されています。

 国内絵本1位は『いそっぷのおはなし』、海外翻訳絵本の1位は『ないしょのおともだち』
 2009年国内絵本総評(解説 小野明)の冒頭で「たしかに二〇〇九年、昔話絵本は堅調でした」と述べられている通り、四月に全二十四巻の<日本名作おはなし絵本>(小学館)のシリーズが始まり、十二月に広松由希子・文の<いまむかし絵本>(岩崎書店)の刊行が開始されています。国内絵本1位もイソップの昔話の再話でした。
 創作物語絵本ではなく、昔話の再話がトップに選ばれていることを総評や<特別企画>「絵本のことば」の「再話絵本の系譜」(野上暁)、<エッセイ>「イソップをめぐって」(蜂飼耳)を読みながら考えさせられました。2位以下は、本書を読んでからのお楽しみです。

 巻末の「2009年刊行絵本リスト 国内編/海外編」と「絵本好き108名のアンケート」は、絵本に関する貴重な情報源。アンケートの回答者である「絵本好き108名」は、司書、絵本専門店関係者、教員、保育士、編集者、研究者など絵本に関わる専門家です。巻末まで丁寧に読むと、一年間に刊行された絵本を概観することができ、ベスト絵本の選にもれた名作を見出すことができます。

 <エッセイ>「時代の変わり目」(ひこ・田中)の「新しい時代の変わり目を絵本でどう提示するかの試みが、今こそ必要です」という提言と「二〇〇九年の児童書について」(赤木かん子)の「時代の過渡期に子どもの本の世界が音を立てて方向転換しているのだ」というコンピューター時代における絵本の世界の変化への思いを専門家ならではの鋭い洞察として受けとめました。

 本書は絵本の今のあらゆる魅力に満ちているだけでなく、絵本のこれからへ向けての専門家の厳しい批評や鋭い洞察も込められています。絵本の今が知りたいあなたへ、また、絵本を深く広く味わいたいあなたへお薦めしたい一冊です。

 bk1今週のオススメ書評に選んでいただきました。(2010年4月9日)

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