グリム童話の魅力が現代に脈々と生き続けていることを感じさせてくれる絵本
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ヘンゼルとグレーテル―グリム兄弟の童話から 著者:ヤーコプ・ルードヴィヒ・グリム,ヴィルヘルム・カール・グリム |
19世紀の初めにグリム兄弟が人々の間に語り伝えられてきた話を集めて書きしるした『グリムの昔話』(原題:子どもと家庭のメルヘン)には200あまりの話がおさめられていますが、「ヘンゼルとグレーテル」は、その中でも代表的な話のひとつです。
「ヘンゼルとグレーテル」と言えば、まず、お菓子の家、ヘンゼルをかまどの火で焼いて食べようとする怖ろしい魔女、二人の子ども達を森の奥に捨てる残酷な継母、そして、その背景にある貧しさと飢え…。
本書の画家カトリーン・ブラントは、1967年に最初の絵本『こびととくつや』を出版し、翌年ドイツ児童図書賞を受賞、2004年に『魚師とおかみさん』を出版後、長い年月を経て、本書の挿絵を描きました。
ブラントは、お菓子の家を色とりどりの美しいお菓子ではなく、ドイツのレープクーヘンという伝統的な焼き菓子を用いて地味に描いています。そして、絵本の背景を真っ黒に塗りつぶし、当時の貧しく、過酷な環境を暗示しています。
二人をつかまえた魔女は、どこかしらまぬけな表情をしています。幼いグレーテルにかまどの火で焼かれてしまうのですから、本当にまぬけな魔女だったのでしょうか。
ヘンゼルとグレーテルの二人が継母のたくらみを知った時のおびえ、暗い森の中を歩く時の不安、森に置き去りにされた時の悲しみ、魔女に見つかったときのおどろき、魔女から解放された時の喜び…ブラントは二人の子ども達の表情、特に目の表情をくきやかに描いています。二人の父親であるきこりの姿や継母の姿は描いていません。二人の子ども達の姿を通して、『ヘンゼルとグレーテル』は、飢えや貧しさに出会って二人が自立し、成長していく物語であることを浮き彫りにしたかったからでしょうか。物語の全てを描かず、読者の想像に委ねた作者の懐の大きさを思いました。
二人を森の奥の魔女の家に導く白い鳥、また、二人が森をぬけ出すために大きな川を渡るのを助ける白いあひる(異界と現実世界の橋渡しをする鳥の役割)、兄のヘンゼルに頼り切っていた妹のグレーテルが機転を利かせ、兄を救い、森から抜けだした時のいきいきとした笑顔や背景の黒と白のコントラストを通して『ヘンゼルとグレーテル』の物語に込められたメッセージがシンプルかつ十分に描き出されていることを感じます。
人々の口から口へと語り継がれた物語を再話するにあたって、現代を生きる私たちの心に届くシンプルで洗練された言葉に翻訳されていることも本書の特長でしょう。グリム童話の魅力が現代に脈々と生き続けていることを感じさせてくれる絵本です。
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