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2011年7月27日 (水)

『発達障害 母たちの奮闘記』~無理解の壁に挑み、発達障害の本質的な理解を促す良書 

発達障害 母たちの奮闘記 (平凡社新書) Book 発達障害 母たちの奮闘記 (平凡社新書)

著者:山下 成司
販売元:平凡社
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 もし、電車の中で、唐突に中年の女性の髪の毛に触れる少年がいたら、あなたはどのように感じますか? また、もし、学校の近くの畑で芋をぜんぶ掘り返している少年を見かけたら…? 
 少年の奇異で突飛な行動に驚き、どう対処してよいのか分からないというのが世間一般の反応ではないだろうか。この少年のように、外見的には「普通」であっても、社会生活、特に他者とのコミュニケーションに支障を来す障害、それが発達障害だ。

 近年、学問的な研究が進み、2005年の発達障害者支援法の施行をきっかけに、社会的な認知が始まったが、軽度精神発達遅滞、広汎性発達障害(PDD)、学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)等の各種別の特性、また、それぞれの置かれている環境や個性など複雑に絡み合っているため、一般社会には本質的な理解が及ばない。
 発達障害は、その判断が難しく、障害の認知が遅れがちだ。家族も本人もその障害に困惑し、支援のあり方が想起しにくいため、周囲からの適切な支援を受けることも叶わない。そのため、本人に自己否定感や自尊心の低下という二次障害が生じ、家族にも、自分の子育てのせいで子どもがこうなったのでは?という自責の念が生じる。本人や家族が精神的に追い詰められる前に、早期の認知や周囲の理解が切実に求められている障害だ。

 本書の著者である山下成司氏は、フリーランスのイラストレーターの仕事のかたわら、私設学校で18年間、発達障害児教育の現場に立ち続け、前著『発達障害 境界に立つ若者たち』で、「周囲にはなかなか理解されず、要領もよくないけれど、懸命に生きている若者たち」のありのままの声を紹介し、続いて、本書で、その親御さん達の生の声に耳を傾けている。

 発達障害を抱えたわが子の生まれたときのこと、学校、就職のこと…。また、親として、どんなことに悩み、どう乗り越えてきたのか?

 「広汎性発達障害(PDD)」を抱えるツトム君のお母さん、LD傾向を抱えるタケシ君のお母さん、「軽度知的発達障害」を抱えるアミちゃんのお母さん、「高機能自閉症」を抱えるヨシカズ君のお母さん、「学習遅進」を抱えるマリコさんのご両親、発達障害についての情報や理解が乏しかった時代に体当たりで子育てをしてきた四人の母親と一組の夫婦へのインタビューを通して、発達障害についての具体的で分かりやすい事例やエピソードが紹介され、当事者だけでなく、一般の人達にも発達障害の適切な理解を促す内容として編集されている。長年発達障害を抱える子ども達と向き合ってきた著者ならではの的を射た質問にあたたかく、鋭いまなざしが感じられた。
 わが子の発達障害という理解が困難な障害を受け入れ、共に生きてきたお母さん達が乗り越えて来たであろう困難は計りしれない。経験に裏打ちされたエピソードや情報は、専門書にはない力を持って心に響く。「子どもに寄り添いながら、子どもが嬉しいこと、楽しいこと、自信を与えるようなことを考えるようにしてきた」というお母さんがいる。周囲の無理解を超えてわが子に愛を注ぎ続ける姿に胸を打たれた。本書には「母たちの奮闘記」という副題が添えられているが、社会での理解が進み、母たちが奮闘しなくても、発達障害の子ども達が生きていける社会の実現を願いたい。

 著者は、発達障害の無理解の壁に挑み、障害の理解こそが支援への第一歩であることを強く訴えている。「発達障害が固定された障害ではなく、年齢や経験を重ねることで改善されていく可能性がある」という一文に希望を見出す読者も少なくないだろう。本書を読むと、発達障害のお子さんを抱える家族は励まされ、また、当事者でない読者は発達障害を身近な問題として考える機会が与えられる。発達障害への本質的な理解を促す良書だ。

(2011年7月27日オンライン書店ビーケーワンに寄稿)

(2011年8月5日オンライン書店ビーケーワン書評ポータルにて、「今週のオススメ書評]」に選んでいただきました。)

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