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2011年9月13日 (火)

車いすを描くという斬新なアイデアで、障がいを抱えた著者の思いを訴え、読者に問題を投げかける本書を再び多くの人に読んでほしい

わたしいややねん Book わたしいややねん

著者:吉村 敬子
販売元:偕成社
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  セピア色やモノクロの車いすが、折りたたまれたり、倒れたり、風呂敷に包まれて見えなくなったり、画面いっぱいに大きくなったり…、絵本の表紙から裏表紙まで描かれているのは車いすだけ。描いたのは、友人として長年著者である吉村敬子さんの車いすを押し続けた画家松下香住さん。各ページには著者の思いが関西弁で一文ずつ添えられている。「わたし でかけるのん いややねん」に始まり、「そやけど なんで わたしが 強ならなあかんねんやろーか」で終わる。

 なぜ、人は車いすに乗っている自分をじろじろ見るのだろう?
 なぜ、障害を抱えた自分が強くならなくてはならないのだろう?
 違うのは車いすを使わなくてはならないということだけなのに…。

 著者が幼いころから感じてきたであろう心の叫びが痛いほど胸に響く。手足に障がいを抱え、車いすで生活を続けている著者が感じている理不尽な思いや悔しい気持ちを無言の車いすが代弁している。

 1980年に出版されて話題になった本書を30年経た今、図書館で借りた。日本の社会は、未だに障がい児・者にとって多くの問題を抱えている。著者の思いは悲しいかな、今も変わらないだろう。図書館で借りた絵本に「書庫納」というシールが貼られていた。絶版になっていないことだけが救いだ。本書の出版の一年前の1979年に偕成社から「ハンディを負った子を理解するための本」の一冊として『車いすのレイチェル』が出版されている。レイチェルが生き生きと生活する様子が描かれており、イギリスと日本の社会の在り方の違いが浮き彫りにされていたが、今は絶版で手に入らない。あまりにまっすぐに障がいを語り、描き過ぎていたからだろうか。本書が、今も読み継がれているのとは好対照だ。

 「そやけど なんで わたしが 強ならなあかんねんやろーか」
 最後の一文ががっつりとと胸に迫る。障がい児・者は、障がいを抱え不自由を感じながら精一杯生きている。そして、さらに追い打ちをかけるように「強くなること」を要社会から求されているのだ。もし、自分が「強くなれ」と社会から要求され続けたら、どのように感じるだろう。障がいを抱えた人に「強くなれ」と要求する社会は間違っている。障がいを抱えて生まれてきても、普通に生きていける社会の実現を願わずにはいられない。車いすを描くという斬新なアイデアで、障がいを抱えた著者の思いを訴え、読者に問題を投げかける本書を再び多くの人に読んでほしい。

(以上、ほのぼの文庫の管理人まざあぐうすが、2011年9月12日、オンライン書店ビーケーワンに投稿した書評です。)

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<障害をテーマとした児童文学作品>」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。miekoです。

『わたしいややねん』は衝撃の一冊ですね。

去年の12月に、参加している「らんぱんぱん」というサークルでブックトークをしたときに、この本を紹介しました。
ブックトークのテーマは「愛を確かめよう」。
戦争やテロ、貧困や差別。世界中で起こっている様々な悲しみ。そんな辛い出来事の中でも、私たち人間は、誰かを、何かを、愛したい。愛することを、愛されることを知るために、周りをよく見よう。自分が目を逸らしていたことだったり、知らなかったことに目をむけよう。私たちは知ることで人に優しくなれるのではないかという思いを込めて。

投稿: mieko | 2011年9月30日 (金) 08時55分

clovermiekoさん

 ブックトークでこの本を紹介されたのですね。「愛を確かめよう」、すてきなテーマの時にこの本を選ばれたmiekoさんの選本の目の確かさを感じます。知ることが、愛に繋がる原点かもしれません。真実を知らないからこそ、差別や偏見が生じるのではないかと思います。
 身体障害の本質をずばっと突いた、衝撃的なこの本が長く読み継がれていくことを願っています。すばらしいコメントをいただき、ありがとうございました。
 

投稿: 夏野いづみ | 2011年10月 1日 (土) 21時42分

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