詩集『100かぞえたら さあ さがそ』~「詩」という一つの文学のジャンルに、障がいをテーマとした児童文学作品の新たな可能性
タイトルとなっている「100かぞえたら さあ さがそ」は、耳のきこえない五人のこどもたちがかくれんぼをする時のことば。本書は、長年ろう学校で障害児教育に携わってきた作者が、聴覚障害のある子ども達と共に過ごす中で、感じたこと、気づいたことを子ども達の心になってうたった詩集です。
耳が不自由な「ぼく」にことばを教え続けた母さん。ことばがなかなか覚えられないと、よくほっぺをぶたれた。そんな母さんが、「じょうはつしちゃんたんだよ」と父さんが言った。”じょうはつ”したら空気になる。「母さんの空気 すいたいな」と「ぼく」が言う。「母さんの 空気」という詩がぐっと胸に沁みて涙が止まりませんでした。
「民主主義」や「同じ」ということばの手話の不思議、とうさんやかあさんと交わす手話のあたたかさ。
生まれつき耳の不自由な子どもを持つ家族の気持ち、家族と離れてろう学校の寄宿舎にいるさびしさ。
聴覚障害のある子ども達のことばの訓練。季節の草花や木々を感じる心…。
詩のことばの行間に子どもたちへの深い慈しみの心が満ち、また、聴覚障害を抱えながら、せいいっぱい生きている子どもたちへの絶対的な信頼が感じられました。
本書は聴覚障害のある子ども達をめぐる、楽しく、切ない詩集。詩のことばを通して聴覚障害への理解が深まれば作者の最も望むことでしょう。読者の一人として、本書が長い年月多くの読者に愛され、聴覚障害への理解が深まり広がることを心から願いつつ、「詩」という一つの文学のジャンルに、障がいをテーマとした児童文学作品の新たな可能性を感じています。
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100かぞえたらさあさがそ (草炎社こども文庫 5) 著者:新井 竹子 |
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