« 2011年10月 | トップページ | 2012年4月 »

2012年3月

2012年3月20日 (火)

(シャロン・ドガー著・野沢佳織・訳)『隠れ家 アンネ・フランクと過ごした少年』(岩崎書店)

  世界中で読み継がれ、大ベストセラーとなっている『アンネの日記』。アンネ・フランクは自らの意志を日記の中で誰に臆することもなく綴ったことで、勇気ある少女として世界中の称賛を浴びました。その日記に登場するペーター・ファン・ペルスが、作家シャロン・ドガーによって、物語の主人公として蘇りました。
 ペーターは、アンネが恋に似た気持ちを抱きかけた少年です。アンネにとっては、日記を書き続けることや将来の夢という、恋よりも大切なものがありました。しかし、ペーターにとってアンネは死の際まで心を占めた存在…。

 ぼくはもう死んだけれど、耳をすませばきっと、きみにもぼくの声が聞こえるはずだ。

 きみはまだそこにいるのか?
 ぼくの話を聴いているのか?

 ペーターは、死の時を迎えてもなおアンネに語りかけています。『アンネの日記』では、登場人物の一人に過ぎなかった少年が、自らの叶わなかった恋やアンネへの複雑な思い、そして、ホロコーストの犠牲者となった心中を死の際まで語り続けます。
 
 物語は、ペーターが死の時を迎え、隠れ家での日々を回顧するプロローグにはじまり、アンネ・フランクの家族と共に潜伏生活を送った2年間を綴った第一部「隠れ家」、そして、ドイツ秘密警察に捕まり、アンネと離れ離れになった後の収容所での生活を綴った第二部「強制収容所」から構成されています。
 第一部では、ペーターの視点で『アンネの日記』を再読しているかのような感触を覚え、第二部では、ペーターの視点でフランクル博士の『夜と霧』を再読しているかのような感触を覚えました。『アンネの日記』の登場人物がそのまま立ち上がってくるようです。アンネによって語られたペーター像を損なうことなく、ペーター・ファン・ペルスをより人間味を持った少年として感じることができます。

 1947年の刊行以来、60年余りにわたり世界中で読まれてきた『アンネの日記』が、今、新たな形で蘇り、ナチス・ドイツのホロコーストの事実を語ります。ホロコーストは風化させてはならない歴史的事実の一つです。こうして、新たな少年の視点でホロコーストを語ることに意義を感じ、本書をヤングアダルト世代の少年少女達に必読の物語としてお薦めします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年3月17日 (土)

迫力のある「きたかぜとたいよう」の秀逸絵本

 久しぶりにイソップ物語のすてきな絵本に出会いました。
 既刊の絵本の中では、ブライアン・ワイルドスミスの絵による『きたかぜとたいよう』(らくだ出版)やバーナデット・ワッツの絵による『きたかぜとたいよう イソップ童話』(西村書店)を選んで子ども達に読み語りをしましたが、本書には、それらとは異なる魅力があります。その魅力とは、各ページに漲る勢い。各場面に登場する「きたかぜ」も「たいよう」も「たびびと」もそれぞれが絵本のページから飛び出してきそう。版木を彫って直に着彩する木彫画で描かれた、実に迫力のあるイラストです。

 紀元前600年頃の人物とされるイソップの物語は、様々な文化圏に広がり、地域や言語、人種の違いを超えて、全世界で愛読されています。幼い子ども達にもわかりやすいシンプルなストーリーと貴重な教訓が込められていることが魅力。日本では、16世紀の末にイエズス会の宣教師により『イソポのハブラス』として紹介され、明治時代に入って修身の教科書に取り入れらた位、古くから親しまれていますので、タイトルを言えば、すぐにそのストーリーが思い出されるのではないでしょうか。

 「きたかぜとたいよう」は読むたびに、反省を促され、何度読んでも、あたたかく心に響き、心に痛い物語です。ついつい、いつの間にか、「きたかぜ」のような考え方をしてしまいがち。家族における親子関係や夫婦関係、職場の上司と部下、教育現場での教師と生徒、友人関係など、幼い子どもから老人に至るまであらゆる年代にとっての教訓、人生訓となりうる物語ではないかと思います。

 本書は、蜂飼耳(詩人・小説家・エッセイスト)の再話により、岩崎書店から刊行されたシリーズイソップ絵本の最終巻です。『オオカミがきた』(ささめやゆき・絵)、『いなかのネズミとまちのネズミ』(今井彩乃・絵)、『ライオンとネズミ』(西村敏雄・絵)、『ウサギとカメ』(たしろちさと・絵)に続いて刊行されました。イソップの物語の中から5つの寓話を厳選し、新進気鋭の語り手と最先端のイラストレーターを起用した岩崎書店の企画を高く評価し、「きたかぜとたいよう」の新たな秀逸絵本として、本書をお薦めします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年3月 5日 (月)

児童図書相談士1級合格

 2012年2月18~20日、NPO法人絵本・児童文学​研究センターの児童図書相談士の試験を受けるために、5年ぶりに小樽を訪れました。小樽の街は、運河も凍り、深い雪に覆われていました。その深い雪の所々に、ろうそくが灯されていて、北国ならではの情緒を感じました。

Photo_2


Photo_3

Photo_4


 お陰さまで、第11回「児童図書相談士」検定試験で、1級に無事合格することができ、一生の思い出に残る小樽への旅となりました。


 児童図書相談士とは…

「現代の複雑な社会において、子どもたちの心をいかにケアするかは大きな課題である。そのためのひとつの窓口として書籍文化はかかせない。しかし、現今の出版洪水の状況下では良書の選択そのものが困難である。そこで子どもの年齢や家庭環境をも考慮しつつ、良書選択のアドバイスが必要とされる。そのアドバイスの基準として企画されたのが「児童図書相談士」検定である。

 アドバイスと言っても単純なことではない。そのためには、書籍の知識のみならず、ある程度の発達心理学や深層心理学的観点、思考としての哲学性、さらに現在の国際化の状況を踏まえての「比較文化論」など、多様な観点を踏まえなければ現実的なアドバイスとはなりがたい。このような意味で数多くの読書相談士を養成することは現代の文化的課題として重要であり、急務の事業と考える。

 また、上記の意味においての「児童図書相談士」は、子どものみならず、青年期・成人期・熟年期・老年期の各世代においても重要な役割を期待される。それは現代の世代構成を鑑みれば、自ずと生涯学習の観点が要求されるからである。そのため、「児童図書相談士」は、児童文化と生涯学習との接点を、今後、新たに創設される学会(「児童文化と生涯学習」学会)において模索・研究する中核を担う存在として期待されるものである。」(以上、NPO法人絵本・児童文学研究センターの公式ホームページより引用しました)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2011年10月 | トップページ | 2012年4月 »