(シャロン・ドガー著・野沢佳織・訳)『隠れ家 アンネ・フランクと過ごした少年』(岩崎書店)
世界中で読み継がれ、大ベストセラーとなっている『アンネの日記』。アンネ・フランクは自らの意志を日記の中で誰に臆することもなく綴ったことで、勇気ある少女として世界中の称賛を浴びました。その日記に登場するペーター・ファン・ペルスが、作家シャロン・ドガーによって、物語の主人公として蘇りました。
ペーターは、アンネが恋に似た気持ちを抱きかけた少年です。アンネにとっては、日記を書き続けることや将来の夢という、恋よりも大切なものがありました。しかし、ペーターにとってアンネは死の際まで心を占めた存在…。
ぼくはもう死んだけれど、耳をすませばきっと、きみにもぼくの声が聞こえるはずだ。
きみはまだそこにいるのか?
ぼくの話を聴いているのか?
ペーターは、死の時を迎えてもなおアンネに語りかけています。『アンネの日記』では、登場人物の一人に過ぎなかった少年が、自らの叶わなかった恋やアンネへの複雑な思い、そして、ホロコーストの犠牲者となった心中を死の際まで語り続けます。
物語は、ペーターが死の時を迎え、隠れ家での日々を回顧するプロローグにはじまり、アンネ・フランクの家族と共に潜伏生活を送った2年間を綴った第一部「隠れ家」、そして、ドイツ秘密警察に捕まり、アンネと離れ離れになった後の収容所での生活を綴った第二部「強制収容所」から構成されています。
第一部では、ペーターの視点で『アンネの日記』を再読しているかのような感触を覚え、第二部では、ペーターの視点でフランクル博士の『夜と霧』を再読しているかのような感触を覚えました。『アンネの日記』の登場人物がそのまま立ち上がってくるようです。アンネによって語られたペーター像を損なうことなく、ペーター・ファン・ペルスをより人間味を持った少年として感じることができます。
1947年の刊行以来、60年余りにわたり世界中で読まれてきた『アンネの日記』が、今、新たな形で蘇り、ナチス・ドイツのホロコーストの事実を語ります。ホロコーストは風化させてはならない歴史的事実の一つです。こうして、新たな少年の視点でホロコーストを語ることに意義を感じ、本書をヤングアダルト世代の少年少女達に必読の物語としてお薦めします。
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