『ゆきひらの話』(安房直子・文/田中清代・絵)(偕成社)
「ゆきひら」とは、「土でつくられた、茶色いおなべのこと」
在原業平の兄行平(ゆきひら)が、海女に海水を汲ませて塩を焼いた故事に因んで名づけられたと言われています。行平の名まえに因む由来と、その時用いた鍋に、白い塩が現れてきて、それが雪のようであったからという由来があり、漢字では、「行平鍋」とも「雪平鍋」とも表記されます。
「ゆきひらをしっていますか」という一文で始まる物語。畑の中の小さな古い一軒家に住むおばあさんが、かぜをひいて、たった一人でねこんでいました。そこへ、コトコト、コトコトと音を立てて現れたおなべ。自ら、「ぼく、ゆきひらです。」と名のります。おばあさんが台所のとだなにしまい忘れた古いおなべでした。「行平君」とでも呼べそうな、実にかわいいおなべが絵本のページいっぱいに描かれています。
安房直子さんの作品は、身の回りの小さな道具を使って起きる、小さな魔法に満ちています。おなべの「ゆきひら」にかけられた魔法から、おばあさんの夢の世界が広がり、また、かぜをひいたおばあさんを元気にする甘酸っぱい一品ができあがります。
さて、「ゆきひら」は、おばあさんに何を作ってあげたのでしょうか?「おいしい」お話とレシピという「おまけ」がついています。一人ぼっちのおばあさんとおなべの「ゆきひら」がくり広げる物語、最終ページまでお楽しみください。読み終えて、心がじわっとあたたかくなり、「ゆきひら」を「雪平」とつづってみたくなりました。
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