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2014年5月14日 (水)

絵本・児童文学研究センター正会員月間レポート賞:2012年10月正会員ゼミ「アメリカ絵本の黄金期」Ⅱバージニア・リー・バートン 講師:工藤左千夫

 NPO法人絵本・児童文学研究センターの2012年10月正会員ゼミ<「アメリカ絵本の黄金期」Ⅱバージニア・リー・バートン 講師工藤左千夫>のレポートで、正会員月間レポート賞をいただきました。お読みいただけるとうれしいです。

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 わが家では、息子が幼いころ、『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』や『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』、『はたらきもののじょせつしゃケイティ』を好み、絵本が擦り切れるほど読み聞かせをしたため、バージニア・リー・バートンの作品は私にとっても思い入れが深い。子どもたちが幼かった日々の思い出を辿るように彼女の作品を読み返し、心温まる思いの中で、今回のゼミを聴講した。

アメリカの絵本の黄金期の作家の中で、ワンダ・ガアグの影響を最も受けていると言われているバージニア・リー・バートンは、独特の文体と場面割の的確さが高く評価されている。その作品の特長や背景が年代順に解説された。バートンは、絵本の創作において、先にストーリーを作り、彼女の子どもたちに読み聞かせをした。そして、子ども達に受け入れられたストーリーを絵本に描いた。耳で聞くために練りに練った独特の文体は、自らの子ども達という最も愛おしく、最も厳しい存在が、そのフィルターとなっていたのだ。

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』は長男のために、『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』は次男のために、『はたらきもののじょせつしゃけいてぃ』は夫のために、『ちいさいおうち』は長女のために創作された絵本だ。『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』は木版画、『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』は石版画、その後もスクラッチボードやカラーセパレーションなど作品ごとに手法を変え、新たな職人芸を駆使している。

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』は機関車の前傾姿勢が独特に描かれており、動きのある作品となっている。また、『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』は時代の流れで、新式のガソリン・ショベルや電気ショベルに仕事を奪われてしまったスチーム・ショベルのメアリ・アンが、運転士のマイク・マリガンと二人でがんばって、市役所の建築現場に大きな穴を掘る物語。科学技術の進歩の中、古き良きものへのあたたかいまなざしが感じられる作品だ。中でも、『ちいさいおうち』は1943年、カルデコット賞に輝いた不朽の名作である。田舎の美しい風景に囲まれて建てられた一軒の家が、都市開発が進む中、時代の変化をこえて残され、再び田舎に引っ越していくという物語。バージニア・リー・バートンは、科学技術の進歩による工業化と都市化や経済成長と金融恐慌、二つの世界大戦の勃発や公民権運動等の激動の時代の中で絵本の創作を重ね、子どもたちにさりげなく都市化の弊害を告げ、自然や簡素な生活の大切さを訴えている。

幼いころ息子が夢中になっていたバージニア・リー・バートンの作品の魅力が解き明かされる中、ひとつだけ心残りとなっているのは、バートンの最後の作品である『せいめいのれきし』を子どもたちに読み聞かせしなかったことである。「地球上にせいめいがうまれたときから いままでのおはなし」が5幕の劇仕立てで展開される大型絵本で、8年間という長い年月をかけて創作された大作だ。

日本の児童文学の大家である瀬田貞二氏が『絵本論』の中で「現在私の知るかぎりの子どもの絵本のなかから、どれか一冊最高のものを選べといわれたら、私は、バージニア・リー・バートンの『せいめいのれきし』をとりあげるでしょう」とまで絶賛する名作である。その理由として、「ある理念、ある抽象的な概念を子どもにわかりやすく表現」していることが挙げられている。バージニア・リー・バートンの作品は、内容が子どもにわかるように表現されているという観点においては、世界の絵本作家の最高峰に位置するのかもしれない。時間、場所、人物がわかりやすく、子ども達の目に見えるように描かれている。

バートンの絵本を工藤先生に読んでいただき、なつかしく、明るく、あたたかい気持ちに満たされた。そして、その作品を今の日本の幼い子どもたちに強く薦めたいと思った。バートンの作品は、子どもにとってわかりやすいだけでなく、作品の中に自然讃美があり、古き良きものへのまなざしがある。急速な都市化の中で田園風景が消え、自然に親しんで遊ぶという体験が乏しい子ども達には、絵本の世界の自然の中で安心して遊んでほしい。今の日本の子ども達が成長するにつれて、現実から目を背け、ゲームやパソコンのバーチャルな世界に心の安住を求め、精神が不安定になっていくのを見ているのが忍びない。幼いころにこそ、絵本の世界の自然を安心して楽しんでほしい。

子ども達も大人と同様、東日本大震災後の津波と原発事故の被害を目の当たりにし、また、長引く不況による閉塞感の中で、恐怖感や不安感に煽られ、未来に希望が持てないのだろう。子ども達には心の拠り所となる、安心できる体験が必要だ。幼いころの絵本体験、物語体験として、社会の変化と自然の豊かさや美しさを共に安心して体験できるバージニア・リー・バートンの絵本を薦めたい。変化の時代を生きる子ども達の心の拠り所となり、どんな状況にあっても希望を失わない、柔軟な心を培うのではないだろうか。

(文責:吉村眞由美 NPO法人絵本・児童文学研究センター児童図書相談士1級)

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