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2023年1月

2023年1月 9日 (月)

絵本『絵巻 万葉ものがたり』(阿見みどり/画・文)(銀の鈴社)のご紹介

 「ほのぼの文庫」を訪れてくださり、ありがとうございます。  本業多忙のため、ブログの更新ができずにいますが、昨年より、11年ぶりに児童文学作家・日野多香子先生の講座にオンラインで参加しています。 引き続き、よろしくお願い致します。  今日は、久しぶりに書評をアップしました。

 

『絵巻 万葉ものがたり』は、画家である阿見みどり氏が制作期間10年をかけて完成した絵本である。水彩画と書による絵巻全四巻(上・下巻の計八軸)には、万葉集の約4500首から選出された100首が収められ、「万葉びとの自然観」「万葉びとの愛」「万葉びとの想い」「万葉びとと草花」をテーマに、それぞれ25首ずつが各巻に収められている。水彩画は、「鳥獣戯画を師と仰ぎ、ほとばしるように動く絵筆に委ねた」という豪華本である。

 

 阿見みどり氏は、国語学者で万葉集の研究者だった父(山口正氏)の影響もあり、幼い頃から万葉集に親しみ、大学の卒業論文でも万葉集をテーマとして取り上げており、画家となってからは、万葉集に詠まれた草花をモチーフに描き続け、野の花画家としての地位を確立している。「『若い人や海外の人にも、世界に誇れる万葉集という文化を身近に感じ、味わってほしい』という強い気持ちで作り上げました」という氏の思いが、絵本の各ページに添えてある氏の文や意訳に貫かれ、Bruce&Yuko Rutledge夫妻による氏の英訳により、海外の読者の心にも届くように作られている。

 

 国文学者の村瀬憲夫氏による「監修のことば」と阿見みどり氏の「はしがき」に、氏による新解釈が施されている歌があることが記されている。本書30ページの「天の香具山」の歌や53ページの「堅香子の花」の歌の独自の解釈に、画家として、また、編集者として仕事を重ねてきた氏の深い洞察力が感じられる。Rutledge夫妻による英訳は、万葉集の原文の英訳ではなく、氏による現代語訳(意訳)の英訳であるため読みやすい英語となっている。

 

 本書を紐解くと、氏の水彩画と書を通して美しい日本の四季と万葉の時代の風景や衣装、建物、人々の生活を堪能することができ、さらに氏の意訳、そして、その英訳により、選び抜かれた万葉集の歌100首への理解を深めることができる。抒情性豊かな水彩画と歌と解説が三位一体となって響き、中学生から大人まで、また、海外の読者まで、万葉集を楽しむことができるグローバルな絵本である。令和の時代に蘇った万葉びとのものがたりとしてお薦めの一冊である。 Amazonはこちらです。

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