絵本論、ガイドブック

2010年4月 5日 (月)

2009年に刊行された絵本のガイドブック 絵本の今を知りたいあなたへ、また、絵本を深く広く味わいたいあなたへお薦めの一冊

この絵本が好き!〈2010年版〉 Book この絵本が好き!〈2010年版〉

販売元:平凡社
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 本書は、「別冊太陽」の絵本シリーズの中で2003年度版から始まり今年で8年目を迎える毎年恒例の絵本ガイドブック。
 「2009年の絵本ベスト28(国内絵本13冊/海外翻訳絵本15冊)」の発表と総評、そして、「絵本好き108名のアンケート」の一挙掲載をメインとして、「現代の絵本界を牽引する作家たち 太田大八 モーリス・センダック」や<没後三十年> 「瀬田貞二の絵本世界」の特集の他、特別企画「絵本のことば」や追悼記事(かがくいひろし・滝平二郎)など、2009年に刊行された絵本の情報が満載されています。

 国内絵本1位は『いそっぷのおはなし』、海外翻訳絵本の1位は『ないしょのおともだち』
 2009年国内絵本総評(解説 小野明)の冒頭で「たしかに二〇〇九年、昔話絵本は堅調でした」と述べられている通り、四月に全二十四巻の<日本名作おはなし絵本>(小学館)のシリーズが始まり、十二月に広松由希子・文の<いまむかし絵本>(岩崎書店)の刊行が開始されています。国内絵本1位もイソップの昔話の再話でした。
 創作物語絵本ではなく、昔話の再話がトップに選ばれていることを総評や<特別企画>「絵本のことば」の「再話絵本の系譜」(野上暁)、<エッセイ>「イソップをめぐって」(蜂飼耳)を読みながら考えさせられました。2位以下は、本書を読んでからのお楽しみです。

 巻末の「2009年刊行絵本リスト 国内編/海外編」と「絵本好き108名のアンケート」は、絵本に関する貴重な情報源。アンケートの回答者である「絵本好き108名」は、司書、絵本専門店関係者、教員、保育士、編集者、研究者など絵本に関わる専門家です。巻末まで丁寧に読むと、一年間に刊行された絵本を概観することができ、ベスト絵本の選にもれた名作を見出すことができます。

 <エッセイ>「時代の変わり目」(ひこ・田中)の「新しい時代の変わり目を絵本でどう提示するかの試みが、今こそ必要です」という提言と「二〇〇九年の児童書について」(赤木かん子)の「時代の過渡期に子どもの本の世界が音を立てて方向転換しているのだ」というコンピューター時代における絵本の世界の変化への思いを専門家ならではの鋭い洞察として受けとめました。

 本書は絵本の今のあらゆる魅力に満ちているだけでなく、絵本のこれからへ向けての専門家の厳しい批評や鋭い洞察も込められています。絵本の今が知りたいあなたへ、また、絵本を深く広く味わいたいあなたへお薦めしたい一冊です。

 bk1今週のオススメ書評に選んでいただきました。(2010年4月9日)

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2009年3月26日 (木)

2008年刊行の絵本のガイドブック 絵本の今を知りたいあなたへ、また、絵本を深く広く味わいたいあなたへお薦めの一冊

 

この絵本が好き!〈2009年版〉 Book この絵本が好き!〈2009年版〉

販売元:平凡社
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 本書は、「別冊太陽」の絵本シリーズの中で2003年度版から始まり今年で7年目を迎える毎年恒例の絵本ガイドブック。「2008年の絵本ベスト24(国内絵本11冊/海外翻訳絵本13冊)」の発表と「絵本好き107名のアンケート」の一挙掲載をメインとして、「今に生きる画家 初山滋と茂田井武」や「現代の絵本界を牽引する作家たち 五味太郎/エリック・カール」、「注目の絵本作家の大作品展 大道あや展/丸木スマ展」の特集の他、絵本に関するエッセイや読み物など、2008年に刊行された絵本の情報が満載されている。

 児童書の中でも特に絵本は新刊をリアルタイムで把握することが難しく、まして、その全てを書店で手にとって見ることが不可能なため、本書の「2008年に刊行されたおもな絵本約1200冊」のリストや2008年の絵本ベスト24冊のオールカラーによる紹介記事が大変貴重な存在に思える。また、アンケート「わたしのベスト絵本 2008年刊行国内絵本/海外翻訳絵本」は2008年に刊行された絵本の推薦文として信頼に値する。回答者が「絵本好き107名」とされているが、司書、絵本専門店関係者、教員、保育士、編集者、研究者など絵本に関わる専門家と理解してよいだろう。
 
 国内絵本1位は『くまとやまねこ』、海外翻訳絵本の1位は『てぶくろがいっぱい』。1位の絵本の翻訳者インタビュー記事の中で、『てぶくろがいっぱい』は、原書が刊行された1958年から50年の歳月を経て翻訳され、今の時代に受け入れられていることを知り、海外翻訳絵本は新刊のみならず古い絵本の翻訳にも良書発掘の可能性が秘められていることを感じた。2位以下は、本書を読んでからのお楽しみ。

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2009年2月 9日 (月)

信頼できる絵本のリスト、ガイドブックとしてお薦めの一冊!

 本書の監修者である生田美秋氏の巻頭言「絵本と上手につきあうために」の冒頭で「身近な大人が責任を持ってよい絵本を選びましょう!」と提言しています。

 本書は、1年間の行事や季節の出来事にふさわしい絵本100冊を厳選して紹介しています。「今月の絵本カレンダー」を基本に、各月に「今月のお誕生日絵本」、「おやすみ前に読む絵本」、「今月のテーマ絵本」のコーナーがあり、また、赤ちゃん、幼児、小学生と発達段階に応じた12か月の定番絵本を紹介する記事が収録されています。お正月、節分、入園式、夏休み、クリスマスなどの定例行事の他に、靴の記念日や鉛筆の日、即席ラーメンの日などの思いがけない記念日とそれにちなんだ絵本が紹介されていて、大人である私たちにも絵本を選ぶ楽しみを与えてくれます。
 紹介されている絵本は、古くから読み親しまれている『いないいないばあ』『わたしのワンピース』から、最新刊の良書である『ちょうちょうひらひら』『としょかんライオン』にまで及びます。

 さて、あなたは、どのような基準で絵本を選びますか?
 生田氏は「よい絵本とは、絵と文の関係、絵と物語の質、めくりの効果と場面の展開、絵と文の相性などから総合的に評価選定されるべきものです。」と自らの絵本の選定基準を述べています。

 大人が責任を持ってよい絵本を選ぶために信頼できる絵本のリスト、ガイドブックとしてお薦めの一冊です。別冊太陽の『心をつなぐ読みきかせ絵本』『続・心をつなぐ読みきかせ絵本』も併せて、お薦めします。

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2009年1月27日 (火)

子どもの人生にとって、いかに絵本が大切な存在であるかを実証する記念碑的一冊 『クシュラの奇跡』

 『クシュラの奇跡−140冊の絵本との日々』は、染色体の異常により複雑で重い障害を抱えたニュージーランドの女の子クシュラが生まれてから3歳9ヶ月になるまでの成長の記録とその間にクシュラが出会った140冊の絵本の物語です。腎臓や心臓、視力、身体的な発育の遅れと、生後間もなく次々と異常が発見され、絶望的な日々を送っていたクシュラとクシュラの両親に一条の光を与えたのが絵本の読み聞かせでした。昼夜分かたず眠れないクシュラを膝に抱きながら、母親が始めた絵本の読み聞かせに、クシュラは強い関心を示し、その後、医学的な診断を超えた成長を遂げることになります。
 

 日本で翻訳出版されたのは1984年。当時、名作絵本の手引書として、また、子どもの成長における読み聞かせの意義を伝える本として高い評価を得ました。

 私が同著と出会ったのは、生後10ヶ月の長女が点頭てんかんと診断された1986年のことでした。悲嘆にくれる日々に、同著と出会い、深い感銘を受けました。

 22年の歳月を経て普及版が出版され、当時の自分と娘の姿と重ね合わせながら、再読しました。同著の特徴は、クシュラの発達の過程や、その過程において出会った絵本の発達段階における意義が、具体的に、かつ、実証的に、著者の抑制のきいた文体によって語られている点にあると思います。

 クシュラの母親のパトリシアによる膨大な量の緻密な成長記録(メモ)と著者の学問的な学び、そして、書店経営や読書教育の実践によって生み出された同著は、子どもの人生にとって、いかに本が大切な存在であるかを、また、幼少期における絵本の読み聞かせの果たす役割がいかに大きいかを力強い言葉で実証しています。

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