復刊ドットコム

2009年10月 7日 (水)

中近東の絨毯を巡る愛と幻想の物語 ~ 近年稀にみる美しい絵本としてお薦め!(新藤悦子著・こみねゆら絵)『空とぶじゅうたん』(ブッキング)

空とぶじゅうたん〈2〉 Book 空とぶじゅうたん〈2〉

著者:新藤 悦子
販売元:ブッキング
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空とぶじゅうたん〈1〉 Book 空とぶじゅうたん〈1〉

著者:新藤 悦子
販売元:ブッキング
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  『空とぶじゅうたん 1』、『空とぶじゅうたん 2』は、1996年に日本ヴォーグ社より刊行された同名書籍『空とぶじゅうたん』を定本に2006年10月にブッキングより復刊された絵本です。判型、装丁デザインを一新し2冊に分冊して刊行。復刊にあたっては、ストーリーはそのままでテキストの全面的な改稿がなされました。『青いチューリップ』にて2005年度第38回日本児童文学者協会新人賞を受賞した作者・新藤悦子氏の力量が感じられるリライトです。また、全ページフルカラーとして、より美しい絵本として蘇りました。

2004年5月に、私(まざあぐうす)が復刊ドットコムにリクエストを出し、2年越しの願いが叶って復刊した記念の絵本です。

 トルコやイランに残る言い伝えをもとに、新藤悦子氏のたぐい稀な創造力で織り上げられた愛と幻想の物語。『空とぶじゅうたん1』には、 「糸は翼になって」、 「消えたシャフメラーン」 、「砂漠をおよぐ魚 」の三篇が、『空とぶじゅうたん2』には、「ざくろの恋 」と「イスリムのながい旅」の二篇の物語が収められています。
 
 2冊の絵本を手にとって開いてみてください。絨毯にまつわる5つの物語に、こみねゆら氏のすばらしいイラストが添えられています。 各ページを囲む絨毯のイラストは、絨毯を織り上げている一本一本の糸をたどるかのように繊細に描かれています。ページを開くたびに、まるで自分が絨毯に座っているかのような感触を覚えます。丹精をこめて描かれたイラストが、読者であるあなたを物語の世界に深く誘います。

 近年稀に見る美しい絵本として、大人のあたなへも、また、お子さんへの読みきかせの絵本としても、力をつくしてお薦めします。

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追記 2009年2月28日 こちらのブログでご紹介いただいていることが分かり、大変うれしく思いました。

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2009年1月30日 (金)

ロシア版シンデレラ物語ー芸術性の高い絵本として復刊を希望ています。  『うるわしのワシリーサ』

 物語の主人公は、美しいワシリーサという女の子。
 8歳の時に母親に先立たれたワシリーサは、意地の悪い継母に引き取られ、二人の連れ子と継母の三人からひどい仕打ちを受けながら働かされますが、実母から授かった魔法の人形がワシリーサを救います。
 ロシアの魔女(鬼婆)ババ・ヤーガが登場し、ロシアの森を背景に繰り広げられる物語。『うるわしのワシリーサ』はロシア版シンデレラ物語と謳われているロシア昔話です。
法律学を学ぶかたわら、絵画学校に通ったイヴァン・ビリービンは、バレエの舞台装置や衣装デザインをてがけるかたわら、ロシアの昔話や童話のイラストを描き、芸術性の高い作品を遺しています。
 絵本が出版されたのが20世紀初頭の1902年。
 ビリービンは、本の一ページ一ページを表現の重要なフレームと見なし、縁飾りやレタリングとイラストレーションを一体化させて、本全体を一つの独立した芸術世界としています。
 シリーズほるぷクラシック絵本の16冊中でも、とりわけ美しい大型絵本です。物語もイラストも芸術性が高く、ぜひこれからも読み継いで欲しい絵本です。現在絶版ですので、復刊を希望しています。

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芸術性の高い歴史絵本ーM・ブーテ・ド・モンヴェルの最高傑作 『ジャンヌ・ダルク』

 百年戦争の後期、フランスの解放を神に託されたと信じ、シャルル七世から授かった軍隊を率いてオルレアン城の包囲を解くなどフランスの危機を救った少女ジャンヌ・ダルクを描いたモンヴェルの絵本。

 わずか18歳にして国民的英雄となったジャンヌ・ダルクはドンレミイというフランス東部の小さな農村の娘でした。若き乙女ジャンヌ・ダルクの純真さ、美しさが繊細に穏やかな色調で描かれています。
 また、当時の王侯貴族の絢爛な様、英仏軍の戦いの有様、ジャンヌ・ダルクを囲む民衆の表情、宗教裁判の非情な様、監獄の中の悲惨さ、夢に現れる聖女の美しさ・・・ジャンヌ・ダルクが勇敢に闘った後、イギリス軍の捕虜となり、生きながら火あぶりの刑に処されるまでの全てが動きを伴い、まるでお芝居の一場面を観るように描かれています。
 ジャンヌ・ダルクが勇敢にイギリス軍と闘った地オルレアンは、モンヴェルの生まれ故郷でもあり、特別な思い入れがあったのでしょう。モンヴェルの作品の中で最高傑作と評されています。

 同時代のイギリスの絵本作家ケイト・グリーナウエイやウォルター・クレインの影響を受けつつも、穏やかな色調と慎み深い表現がモンヴェル独自の魅力となっているのではないでしょうか。
 

 一冊の絵本を通して、ジャンヌ・ダルクの勇気とひたむきな信仰が感じられる、洗練された美しい絵本、表紙がクロス張りの豪華な絵本です。現在絶版となっていますが、歴史絵本としても、芸術性の高い絵本としても復刊の価値のある絵本であると信じます。多くの子ども達に読み継いで欲しい絵本としてお勧めします。

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2004年10月 7日 (木)

過去からの贈り物  『ビビを見た!』

 三月も終わりのある日のこと、生まれつき目が見えないホタルに、突然「七時間だけ目が見えるようにしてやろう」と言う声が聞こえた。
 ホタルは、目が見えたらいいななんて思ったことがない。「目が見えなくてかわいそう」と人はよく言うけれど、ホタルは目が見えないのを少しもかなしんでなんかいない。
 真っ黒なページに白抜きの文字で始まる不思議な絵本。
 ホタルの目が痛み始め、目が見えるようになる瞬間、「ホタルのまぶたに、たくさんの、すごく小さい、あやしい虫が羽音もたてずにたかる」ーそれが光だった。光というものをこんな風に描写できるなんて! すばらしい表現にがーんと衝撃を食らってしまった。
 
 生まれたばかりの赤ん坊のように光を浴びたホタルであったが、
 気がついてみると、ホタルの他の人々は皆、目が見えなくなっていた。
 ホタルの目が見えるようになったと同時に何か非常事態が発生しているようだ。敵が訪れたとアナウンサーがテレビで告げている。
 限られた時間に、もっともっと見たいものがあるだろうに、目が見える唯一の存在として、何ものか分からない敵から人々を守るために戦おうとするホタル。ホタルにとっての限られた時間が非常事態とは、何と残酷なことだろう。ホタルは、パニックに陥っている人々とお母さんを労わりながら、バスに乗り、特急コガラシ号に乗る。
 そこで、美しい緑色の少女ビビに出会う。残された時を惜しむように、ホタルはビビを見つめた。

 十九歳になる私の娘は点頭てんかんにという重い病を抱えて生まれてきた。知的な障害を抱えて生きている。『ビビを見た!』を読んで、父親である主人が「娘にも七時間でいいから、健常児としての時間を過ごさせてやりたい」と言った。確かに、娘が、もし、健常児だったら…という思いを母親の私も抱かないわけではない。
 娘は、周囲の人からの支えなしでは生きてゆけない。日常生活を送る中では、困った存在となることもしばしばだが、明るく前向きに生きている。親ばかだろうが、たとえようもないくらい純粋で可愛い。私は、娘が知的な障害を抱えているがゆえに、美しい心を持ち続けているのかもしれないと思う。
 ホタルは、目が見えなかっただけに本当に美しい物を捉えることができたのではないだろうか。ホタルとビビと謎の敵ワカオが織り成す悲しく、はかなく、残酷な物語を限りなく美しいと思えるのは、娘のお陰かもしれない。

 『ビビを見た!』は、74年理論社刊の再刊である。解説を書いているよしもとばななさんもその一人であるが、この絵本を愛し続けてきた読者たちの熱意によって、復刊された。よしもとばななさんは、この復刊を「過去からのすばらしい贈り物」であると述べている。
 『ビビを見た!』を29年間も大事に読み返してきたよしもとばななさんの解説の言葉が、初夏の緑のようにきらめいている。そして、作者である大海赫さんの「あとがき」が燻し銀のような輝きを放っている。
 胎児の絵に始まり、菩薩像の絵に終わる一冊の絵本、ビビ以外の人々は、亡霊のように不気味に描かれている。黒と白と赤と緑の色彩の世界が神秘的だ。
 本当に見るとは、また、本当に美しいものは何かを考えさせらた。また、自分の命が限られた命であることをぞくっとする形で認識させられた。解説と「あとがき」まで、たっぷり味わうことが出来た。
 「過去からのすばらしい贈り物」を手にすることができて、思いがけない喜びを味わっている。『ビビを見た!』を愛し続けて、復刊ドットコムに投票して下さった皆さんの熱意と誠意を持って復刊に携わって下さったスタッフの皆さんに心からお礼を申し上げたい。そして、「過去からのすばらしい贈り物」をたくさんの方と共有したい。
 大人のあなたにも、まだ、子どもである君たちにも、お勧めの一冊。

 (2004年10月7日bk1に投稿)

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