(山田由香・文/高野文子・絵)『動物園ものがたり』(くもん出版)
『動物園ものがたり』の舞台は、高いビルがたちならぶ、大きな町の一角にあるこんもりとしたみどりの森の動物園です。そこにやって来た8歳の女の子のまぁちゃん、まぁちゃんのおとうさんとおかあさん、おじいさんとおばあさん、そして、カバの飼育係の井上くんと小林さん。登場人物全員が主人公という珍しいものがたりです。
まぁちゃんは、自分からまい子になってしまいました。おとうさんとおかあさんが、けんかばかりしていることをとても悲しんでいます。おとうさんとおかあさんも、いい父親、母親になりたいのにけんかばかりして、お互いに悲しんでいます。
手をつないだ、おじいさんとおばあさんは、出会ってから50年になる仲良し夫婦ですが、子どもがいないことを悲しんでいます。カバの飼育係の井上くんは、カバの母親のウメと娘のモモが離れ離れになることを悲しんで、先輩の飼育係の小林さんに相談しています。
世界中のあらゆる所から動物園に連れて来られた動物達は、どうでしょうか? ゾウやキリン、ゴリラやライオンは、生まれ故郷であるアフリカのことを恋しく思っているのでしょうか? ペンギンやシロクマも北極や南極のことを思っているのでしょうか?
一つの動物園で、みんながいろいろな気持ちを抱えながら、過ごしています。それぞれの喜びや悲しみが、動物園という舞台でパノラマ式に展開するものがたりの中で、まい子のまぁちゃんが、「ヒ・ポ・ポ・タ・マ・ス!」というカバの学術名をとなえると不思議なことが起こります。さて、ものがたりのさいごは、一体どうなるのでしょうか?
テレビアニメ「サザエさん」や「おじゃる丸」など、人気アニメのシナリオをを手がけている山田由香さんの初めての単行本です。軽やかに、くきやかに、ものがたりの場面が展開するのはシナリオライターの為せる業でしょう。代表作「絶対安全剃刀」などで知られる漫画家・高野文子さんのイラストがふんだんに使われて、動物園の楽しい雰囲気を醸し出しています。
動物園は、なぜ必要なのでしょうか?そして、動物園に行くと、どうしてこんなにも楽しいのでしょうか?その答えのキーワードは、家族愛、動物愛、そして、地球への愛。
登場人物のそれぞれが自分の分身のように愛おしく、そして、人間も動物も同じ地球上に生まれたかけがえのない命であることを感じ、幸せな気分に浸ることができました。登場人物全員が主人公という物語の展開は、まさに児童文学の新境地。小学校中学年から大人まで楽しめるものがたりです。シナリオライターと漫画家という異色のコンビで取り組んだ、新しい児童書の世界で、あなたも、動物や人の気持ちを想像してみませんか?
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動物園ものがたり 著者:山田 由香 |
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