地球交響曲

2009年1月30日 (金)

壮大なアラスカの自然や動物、植物たちを写した写真の合間に、心の奥底まで響くような言葉がちりばめられているエッセイ集ーこれからの世界を担う青年たちにお勧めの一冊 『ぼくの出会ったアラスカ 』

星野道夫さんが撮影した写真と、1985年〜1997年に発表したエッセイにより構成された文庫本。星野さんのアラスカとの出会いを中心に構成されている。
 
 「物質的な富を求め、テレビに浸り、本当の世界に触れようとしない多くの人々を理解できなかったという」若い女性のウイロー。
 「風のようにひょうひょうとして、まったく陽気な男なのに、彼の美しい視線はいつも相手の心の奥底を優しく見透かしていた。その美しさはある深い闇を超えてきたまなざしでもある。」ベトナムの帰還兵であるウィリー。
 星野さんの語るアラスカの若者を通して、自分がいかに薄っぺらい世界で生きているかを認識させられた。物質的な富こそ求めないし、テレビにも浸らないが、本当の世界に触れようとしない多くの人の一人である自分の姿が浮き彫りにされる。そして、深い闇を避けて生きている自分を思った。

 「木も 岩も 風さえも 魂をもって、じっと人間を見据えている」というインディアンの神話の一節が引用されている。
 今、生きている環境に居心地の悪さを感じるのは、木や岩のような魂をもって、じっと見据えてくれる存在が乏しいからではないだろうか。

 「行く先が何も見えぬ時代という荒海の中で、新しい舵を取るたくさんの人々が生まれているはずである。アラスカを旅し、そんな人々に会ってゆきたい。」と語る星野道夫さんの言葉に応え得る人々が日本に何人いるのであろうか。

 壮大なアラスカの自然や動物、植物たちを写した写真の合間に、心の奥底まで響くような言葉がちりばめられているエッセイ集、これからの世界を担う青年たちにお勧めの一冊。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『地球交響曲』への理解を深めるために、お勧めのエッセイ集  『地球をつつむ風のように』

 『地球交響曲』の上映会のポスターを目にするようになって10数年が過ぎ、ようやく2005年末に第四番を観ることができた。まさに、これぞ私が体の、また、心の奥底から求めていたメッセージではないかと思える出会いだった。
 もっと地球交響曲について知りたいとの思いから、監督の著書を読むことにした。最初に読んだのが本書である。「交響曲を奏でる魂の友へ」、「子供たちに伝えたいこと」、「風の原点を見つめて」の三章よりなるエッセイ集。『地球交響曲 第四番』の完成を前に刊行されている。
 冒頭に『地球交響曲』とは、「太陽系の第三惑星である地球は、それ自体が一つの大きな生命体としての仕組みをもっており、我々人類はもちろんのこと、動物も虫も草も木も風も水も岩もすべてが有機的につながった大きな生命として、三十五億年の歳月を行き続けている。」というイギリスの物理学者ジェームズ・ラブロック博士のガイア理論に込められている「我々は地球の大きな生命の一部として生かされている」という謙虚な気持ちへの共感が原点となり、1989年から龍村仁監督により撮り始められた映画であることが述べられている。
 『地球交響曲』というタイトルには、「スピリチュアル・ドキュメンタリー」という造語が監督により付されているが、「スピリチュアル」という言葉は、「二十一世紀を迎えようとする今、科学の進歩がもたらしてくれる恩恵を充分に知り、世界を科学的・唯物的に理解する方法を身につけたうえで、なおかつ、そのような方法ではとらえきれない何か宇宙的な、あるいは超自然的な見えない力の存在に気づきはじめた人々の魂のあり方」という意味で用いられている。つまり、『地球交響曲』とは、世界中の「スピリチュアル」な体験をもつ人々のメッセージをガイア理論を原点としてオムニバス風につづった映画であると言える。

 「交響曲を奏でる魂の友へ」の章では、『地球交響曲第三番』に登場を予定していた写真家・星野道夫氏の不慮の死に対する友人達の思いと監督の思いが交錯するように語られていて印象深い。「子供たちに伝えたいこと」の章では、自らの子ども時代を振り返りながら、人間が本来あるべき姿や教育への思いが語られている。ダライ・ラマをめぐるチベットの子ども達の「愛されている確信」が印象に残った。「風の原点を見つめて」では、NHKのディレクターを免職になるまでの過程と『地球交響曲』への思いが誠実につづられている。

 柔軟な心と鋭敏な感性を磨き、自分の理解をはるかに超えた存在からの声に耳を傾けている監督の生き様に心惹かれる。「複雑な人間関係の喜び、恐れ、悲しみとはまったく異なる次元で人は何か大きな力に生かされているのだ」という思いを幼い頃の日向ぼっこの中で感じた監督は、そのことを『地球交響曲』を通して、体を張って伝え続けている。
 『地球交響曲』の美しい映像に込められたメッセージが、押し付けがましくなく、読者である私たちの心に心地良い風として感じられた。『地球交響曲』への理解を深めるために、お勧めのエッセイ集。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月29日 (木)

写真家・星野道夫の心の旅 天職を得るために・・・『星野道夫物語』

 アラスカの自然と動植物を慈しみカメラに収め、エッセイを書いた星野道夫は、1996年8月8日、ロシアのカムチャッカで取材中にヒグマに襲われてこの世を去った。享年43歳。

 本著の作者である国松俊英は星野道夫を写真や著作物を通してしか知らないという。星野道夫を巡る友人、恩師、編集者、ご両親、直子夫人へのインタビューを重ねて書き上げたノンフィクション。幼少時に遡る様々なエピソードを通して、古本屋で偶然見つけたアラスカの写真集に心惹かれて、シュシュマレフという地名をよすがに手紙を書いた青年星野道夫が動物写真家星野道夫になるまでの歩みを語る。
 星野道夫を非凡な動物写真家&エッセイスト・星野道夫たらしめたものが明かされている。読み終えた時、天職という言葉を思った。一人の人間が天職を得るまでのひたすらな思いが感じられた。
 直子夫人の「夫、星野道夫の思い出」の中に引用されている道夫氏からの手紙の「自分の一生の中で何をやりたいのか。そのことを見つけられるということはとても幸せなことだと思います。あとはその気持ちを育ててゆくことが大切です。育ててゆくということは勉強してゆくことで、本を読んだり、人に会ったり・・・その結果、自分の好きなことをもっともっと好きになってゆくことだと思います。」という言葉が心に残る。

 冒頭のアラスカの写真が美しく、物語本文中に引用されている星野の言葉がきらめいている。天職を得るために必要なもの、そして、天職を全うするために必要なものが何であるのかを考えさせられた一冊である。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Don't be afraid to speak about spirits! 『地球交響曲第三番 魂の旅』

 地球交響曲は、ジェームズ・ラブロック博士のガイア理論を原点として、世界中のスピリチュアルな体験をもつ人々のメッセージをオムニバス風につづった映画です。(引用:龍村仁著「地球をつつむ風のように」サンマーク出版)その「第三番」の撮影開始を十日後に控えていた1996年8月8日、重要な出演者となるはずであった星野道夫氏がロシアのカムチャッカで熊に襲われて、この世を去りました。
 三年前の「第二番」の撮影中には、出演を承諾してくれていたF1レーサーのアイルトン・セナが不慮の事故でこの世を去っています。二度目の映画撮影の危機に見舞われ、著者が監督として、一人の人間として、どれほどのショックを受けたのかは計り知れません。
 「人生とは、なにかを計画している時に起きてしまう別の出来事のことをいう」と言うアラスカ初の女性ブッシュパイロットで、星野道夫氏の友人であるシリア・ハンターの言葉が「第三番」を象徴しているように思えます。
 その危機を乗り越えて、著者は「見えない星野道夫を撮る」「聞こえない星野道夫の声を聞く」というドキュメンタリー手法では出来ないことへ踏み出す決意をしました。「私たちの中に眠っている一万年前の記憶を取り戻し二十一世紀に通じる神話を築こう」という星野道夫氏との約束を果たすために。
 「第三番」製作にまつわるエピソードにとどまらず、一つ一つの出来事を現実的な事象から魂のレベルまで深く掘り下げて語る渾身のエッセイ集です。星野道夫氏の死を著者がスピリチュアルな体験として乗り越えてゆく日々が臨場感あふれる言葉で綴られていて、一語一語噛み締めるように読みました。

 神話の語り部ボブを始め、二十世紀最大の宇宙物理学者のひとりであるフリーマン・ダイソンやケチカンの熊の一族のウイリー・ジャクソンなど星野道夫氏を巡る人々と出会いながら、天河大弁財天社、カナダ・ハンソン島、アラスカ・フェアバンクス、ハワイ…そして三内丸山遺跡へと旅を続けます。それは、著者の「自分自身の内に実在する“魂”、あるいは五千年〜一万年前の“記憶”」を遡る旅でもありました。
 著者は、二十一世紀を「私たちひとりひとりの「魂の進化」が極めて現実的に求められている時代だ。」と述べています。“Don’t be afraid to speak about spirits!”というボブ・サムの言葉や「至福の喜びは、深い悲しみと共にある」というビル・フラーの言葉など、星野道夫氏の著作からの引用も含めて、星野道夫氏を巡り、著者と出会った人々の洞察に満ちた言葉が心に沁みます。一人一人が人生をかけて語った言葉だからこそ、心に深く訴えかけるのではないかと思いました。

 「自分のいのちは、自分のものであると同時に、種を超え、時を超えて連綿と続く大きないのちの繋がりの中に生かされている」という当たり前のことを忘れて生きている自分に気づかされました。目に見えない魂の世界がリアルに感じられ、先行き不安な世の中を生きてゆく勇気が与えられるエッセイ集です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

001 アンデルセン 002 宮澤賢治 003 ターシャ・テューダー 004 新藤悦子 005 梨木香歩 006 ジミー・リャオ 007 赤羽末吉 009 エム・ナマエ 010 江國香織 011 中脇初枝 013 いもとようこ 014 こみねゆら 015 荒井良二 016 ケイト・ディカミロ 017 三田誠広 018 モンゴメリ 019 はせみつこ 020 アンネ・フランク 021 アン・グットマン&ゲオルグ・ハレンスレーベン 022 日野多香子先生 111 ほのぼの日記(読書日記) <お正月の絵本> <クリスマスの絵本・童話> <グリム童話> <ファンタジー> <一般書> <児童文学作品> <十二支の絵本> <大人の絵本> <思い出の絵本> <昔話、民話> <絵本> <障害をテーマとした児童文学作品> <韓国の絵本・童話> [命、死、魂] [宗教] [性、愛] [戦争と平和] [歴史] [老い] [言葉 コミュニケーション] ■bk1今週のオススメ書評採用 『お月さん、とんでるね 点頭てんかんの娘と共に生きて』 おすすめサイト お菓子 はじめに アンネのバラ シリーズ ほるぷクラシック絵本 シリーズ 源平絵巻物語 マザーグース ユング心理学 事典、辞典 児童図書相談士 児童文学創作入門講座 地球交響曲 展示会情報 復刊ドットコム 映画・テレビ 演劇公演 目黒川の桜 絵本論、ガイドブック 英語 読み聞かせ 講演会