[言葉 コミュニケーション]

2011年1月13日 (木)

だれもがいいたいことがある~意思伝達大作戦の仲間に!

満月をきれいと僕は言えるぞ Book 満月をきれいと僕は言えるぞ

著者:宮田 俊也,山元 加津子
販売元:三五館
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  「ロックト・イン・シンドローム」をご存じですか?
 日本語で閉じ込め症候群と言われています。思いをしっかりと持っていながら、体のどこも動かないために、自分の思いを伝達する方法がなく、心が閉じ込められた状態です。本書の著者の一人である宮田俊也さん(宮ぷー)は、2009年2月20日突然脳幹出血で倒れ、ロックト・イン・シンドロームに陥りました。本書のもう一人の著者は、宮ぷーの同僚で親友の山元加津子さん(かっこちゃん)。二人とも石川県の特別支援学校の教員です。かっこちゃんは、植物状態となった宮ぷーさんに寄り添い、宮ぷーの意思をレッツ・チャットという意思伝達装置を用いて引き出していきます。どんな状況も「すべてのことはいつかのいい日のためにあるんだ」という「宇宙の約束」として受け止めて、あきらめません。

 本書では、宮ぷーが脳幹出血で倒れてからの日々の様子やブログでのつぶやき、気持ちを伝える方法や意思伝達装置に関する様々な情報と工夫が写真入りで詳しく説明されています。また、かっこちゃんは、「おはなしノート」というイラスト入りのコミュニケーションエイドの開発も行っています。本書の第7章をお読みください。
 私は知的な障害を抱えた娘の母親として、かっこちゃんの「子どもたちは、どんなに障害が重くても、必ずだれもが思いを持っていて、だれもが思いを伝えたいのだということを教えてくれる。あきらめなければ思いを伝えあえる方法はきっと見つけられる」という特別支援学校の教員としての思いを頼もしく思います。本書の副題ともなっている「意思伝達大作戦」は、宮ぷーのためにとどまらず、多くの意思を伝えられない存在に開かれているのです。

 この本の圧巻は、生産停止となったレッツ・チャットの事業が、パナソニック・グループに引き継がれたことではないでしょうか? レッツ・チャットが生産停止となった時、かっこちゃんはメルマガやブログを通して、生産続行へ向けての署名のお願いを発信します。ただお願いを発信するだけでなく、なぜ、レッツ・チャットが必要なのかを分かりやすく解き明かし、さらに、「署名といっしょに社長さんへのお手紙を書いてくださいませんか?」と呼びかけます。かっこちゃんの思いには並々ならぬものがあります。レッツ・チャットの存在を多くの人に知らしめただけでなく、その思いが共感を得て、多くの署名が集まりました。そして、この不況下、パナソニックの経営者の心を動かしたのです。

 『満月をきれいと僕は言えるぞ』という本書のタイトルは、宮ぷーがレッツ・チャットを用いて語ったことばです。何とすてきなことばでしょう! 奇跡的な回復を成し遂げた宮ぷーの思いが美しく結晶しているように思いました。
 「このほんでだれもがいいたいことがあるとわかってください。としや」
 宮ぷーの願いは、本書を集約するようなことばではないでしょうか? 誰もが、何らかの原因で意思が伝えられなくなる可能性があります。「近視の人がメガネをするように、意思を伝えられない人が当たり前のように意思伝達装置を使えるようにしたい」という、かっこちゃんがこの本を書いた目的に深く共感します。あなたも、本書を読んで、意思伝達大作戦の仲間になりませんか? 

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2010年4月17日 (土)

第一回はせみつこの詩のカルチャー @両国シアターXカイ

 今日は、うりぽ・ハセ・カンパニー&舞藝舎主催の第一回はせみつこ詩のカルチャーに参加しました。はせの会主催のはせサロン@自由学園明日館から一年ぶりに女優のはせみつこさんを囲む詩のサロンです。

 プログラム

 第一部 

  •  こどもの詩 「おひさまのかけら」より 
  •  近代詩 初恋(藤村)、サーカス(中也)、猫(朔太郎)
  •  現代詩 ごびらっぷの独白(心平)、男の敵(谷川俊太郎)

 ティータイム

 第二部

  •  自己紹介&おしゃべり
  •  ワークショップ
  •  道(谷川俊太郎)

Photo_2  はせさんが演じる(朗読ではありません!)詩は、はせさんが暗記した言葉というより、はせさんの血肉となった言霊として、心に深く響きます。私は、はせさんの演じる中也のサーカスや心平のごびらっぷの独白が好きです。「おひさまのかけら」から選ばれた子ども達の言葉は、とりたてのお野菜やくだもののような新鮮さで心に届きました。まさに詩の原点だと思います。第二部の自己紹介では、それぞれのはせみつこさんとの関わりが手短に語られ、はせさんのフィールドワークの広さを感じさせられました。

 終わりの方で、「おひさまのかけら」で紹介された子ども達の言葉は「詩」ではないですよね?という質問があり、時間切れで、次回のテーマとして持ち越されました。次回は5月15日(土)です。

Music おひさまのかけら

アーティスト:波瀬満子
販売元:フォンテック
発売日:2004/06/21
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2009年8月21日 (金)

『障害の重い子とともにことばを育む』(学苑社)

 『障害の重い子とともにことばを育む』(学苑社)が、下記の通り、オンライン書店ビーケーワンの書評ポータル(2009年8月21日)にて、ご紹介いただきました。

 この機会に多くの皆様に障害の重いこどもたちがどのようにことばを獲得していくのか、また、そのために実践を通して研究を重ねている先生方の存在を知っていただきたいとの願いを込めて、お知らせ致します。

-----以下、オンライン書店書評ポータル-----

 私たち日本人は
手先が器用で、実用的な工夫が得意だと言われています。反面、物事の原理をじっくりと考える力が弱いとされています。その当否はわかりませんが、書店員として、日本人の手になる骨太の文明批評のような本は意外と少ないなあ(特に最近は)という感想は持っています。今週“くまくま”さんから書評をいただいたジャック・アタリ『21世紀の歴史』には、「利益を求めずに働ける人たちが国際機関を組織し、全ての人類が必要財を手にできる、超民主主義」のアイディアが展開されているそうです。こうした巨大な見通しをきちんと展開できる人がいるというのが、欧州の強みでしょう。ところで“くまくま”さんは、この本を読んで何と東洋の叡智の書である『易経』を思いつかれたそうです。「易は、坤から乾まで、爻という横棒が順次、陰陽変化しながら状態を遷移していき、六十四卦を生み出す、というのがボクの理解だ。だから、ある状態から移れる状態は限られており、いきなり変な状態に飛んだりはしない。そして、これを社会と結びつけることにより将来を占う」。いやあ、驚きました。東洋人にしか浮かばない発想ですよね。ジャック・アタリ氏がこの書評を読んだらすごく面白がるのではないでしょうか。日本の読書人もやるものです(偉そうですみません)。皆さんも、臆せず、自由に、大胆に、独自な発想を書評の中で展開していただければと思います。

■当店の“書評の鉄人”の新刊
“浦辺 登”さん『太宰府天満宮の定遠館』
“まざあぐうす”さん『障害の重い子とともにことばを育む』

<2009.8.21 オンライン書店ビーケーワン販売部 辻和人>

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 以下、まざあぐうすの『障害の重い子とともにことばを育む』の書評です。

 心身に重い障害を抱えて生まれてきた子ども達は、様々な痛みや不快感に耐え、自らの生命維持のために多くのエネルギーを費やさなくてはならず、言葉を発することや書くことに多大な困難を生じます。また、ことばを発することや書くことができても、ことばをコミュニケーションの手段として用いることができないことが多いのです。
 本書は、「障害児のためのことばあそび」の実践を通して、どんなに障害が重い子でも、大人のかかわり方次第で自分の中のことばに気付いていくことができるという確信を得た小川原芳江氏や佐藤真理子氏を中心とする「あ」の会のメンバー(養護学校・小学校教師、保育士、看護師、施設職員、保護者)が、「子どもの心に添う」「子どもの表現力を育てる」というテーマで、発語が困難な状態の子どもたちのことばを生み出すための研究を重ねていた時期の実践記録です。

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2009年5月10日 (日)

はせの会主催 はせサロン@自由学園明日館~女優はせみつこさん

 昨日、娘と二人で女優はせみつこさんの「はせサロン」に参加しました。昨年末は、体調を崩していらしたので、心配しましたが、少しずつ快方に向かわれているようで、自由学園明日館の大教室で、はせさんのパフォーマンスを娘と一緒に楽しみました。

PhotoPhoto_2

 プログラム

 プロローグ(ことばまるかじり・自己紹介)

 むかしばなし(も・もたろう ながい名のこども)

 オリジナル(メニュー歌舞伎)

 映像 (やってきたアラマせんせい)

 近代詩(中原中也、萩原朔太郎、八木重吉、草野心平)

 エピローグ(ハローエブリボディ、I have a dream)

あいうえおとaiueoがあいうえお Book あいうえおとaiueoがあいうえお

著者:はせ みつこ
販売元:小学館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ひらひらきらり―ミッチーのことばあそび 擬音語・擬態語1・2・3 Book ひらひらきらり―ミッチーのことばあそび 擬音語・擬態語1・2・3

著者:はせ みつこ
販売元:冨山房インターナショナル
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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2009年2月 3日 (火)

あなたも、お子さんと一緒に、表情や動きに溢れる言葉を感じてみませんか。 (マリー・ホール・エッツ) 『きこえるきこえる』

 『きこえる きこえる』は、2007年5月にブッキングにより復刊されました。全頁白黒の版画版には、動物や子ども達、お母さんの顔の表情や体の動きが巧みに描かれています。詞書も少なく、色彩もモノクロですが、絵本を開くと、動物達や子ども達、お母さんの気持ちがページから溢れてくるようです。

 エッツの絵本は、人間と人間の、そして、人間と他の生きもののコミュニケーションが言葉によるものではなく、顔の表情や体の動き(ボディランゲージ)、かすかな気配によって成り立っているかを静かに教えてくれるのではないでしょうか。

 書き言葉や話し言葉よりも声の調子や顔の表情、身振りによって、人は人の本当の気持ちを読み取っているのではないかということを感じます。「口先だけの言葉」と言われますが、真実の言葉は、もっと深い部分から伝わってくるのではないか。また、全身をかけて伝えるものではないかということに考えが及びました。

 私自身、点頭てんかんによる知的な障害を抱えた娘を育てながら、言葉というものについて深く考えさせられています。知的な障害を抱えていて言葉を話せないということと、心に意思や感情が無いということはイコールではありません。人間であるからには必ず意思や感情があると信じながら、娘のわずかな表情の変化や体の動きを通して、娘の心を感じながら育ててきました。
 2歳半で初めて、「あとうたん」(お父さん)と言い、4歳半の時に初めて、「んぽぽ、いれい」(たんぽぽ、きれい)という二語文を語った娘とのコミュニケーションはまさにエッツの『きこえる きこえる』の絵本の世界でした。

 絵本に満ちている動物や子ども達、お母さんの気持ち、そして、溢れてくる言葉に、不思議と心があたたかくなります。あなたも、お子さんと一緒に、表情や動きに溢れる言葉を感じてみませんか。

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2009年1月30日 (金)

ことばって何? 「母語」について、「ことば」について考える時にお勧めの一冊  『にほんご』

 「ことばには いつも きもちが かくれている。」
 ことばって何?と問われた時、どう答えるだろうか。
 今の自分にぴったりの答えが、見つかった。
『にほんご』という本の中の一節だ。

「けれど きもちが あんまり はげしくなると
 ひとは それを ことばに できなくなることもある。
 わらったり ないたり、
 ひとりぼっちで だまりこんだり、
ぼうりょくを ふるったり・・・・
そんなとき、ことばは こころのおくふかく かくれてい る。」と続く。
 ことばの中に気持ち(心)が隠れていて、心の奥深くにことばが隠れているという哲学的な言葉観にはっとさせられた。

 『にほんご』は、1979年の初版から読み継がれていることばの本のベストセラー。安野光雅、大岡信、谷川俊太郎、松居直によって、自由に、独創的に構想された、文部科学省の学習指導要領にとらわれない小学校1年生の国語教科書である。

 「ことばは からだの なかから わいてくる。」と言う一節も心に響く。
 小学1年生と言えば、ことばを体系的に学び始める時期だ。初めて論理的にことばに触れる子ども達に向かって、ことばは頭ではなくて、体の中からわいてくるという。
 ことばの豊かさを求めるならば、豊かな体験を求めよというメッセージだろう。
 「にほんご」という題名でありながら、世界各地のことばを紹介している。
ことばが意味伝達、感情表出の一つの手段であることを告げながら、ナンセンスやリズム、そして、ことばあそびの大切さを伝えている。
ことばを通して人間のあり方を考えることや人間関係を築くことの大切さをさり気なく伝えている。
 また、点字の紹介も丁寧だ。
 私たちが生きているのと同じようにことばも生きている。
 だから、ことばには体と心と全てをかけて向かわなくてはならない。ことばは人間が生きていく上で、とても大切なものなのだ。
 そんなことを楽しく、分かりやすく教えてくれる一冊。谷川俊太郎氏による文章も安野光雅氏による挿絵も美しい。
 小学校1年生の教科書として用いるならば、先生と生徒の関係性が大きく問われるだろう。教える側の人間性が深く問われるだろう。その問いが教える側の大人に成熟を促すのではないだろうか。
 言語教育関係者のみならず、「母語」について、「ことば」について考える時にお勧めの一冊。

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