<昔話、民話>

2012年3月17日 (土)

迫力のある「きたかぜとたいよう」の秀逸絵本

 久しぶりにイソップ物語のすてきな絵本に出会いました。
 既刊の絵本の中では、ブライアン・ワイルドスミスの絵による『きたかぜとたいよう』(らくだ出版)やバーナデット・ワッツの絵による『きたかぜとたいよう イソップ童話』(西村書店)を選んで子ども達に読み語りをしましたが、本書には、それらとは異なる魅力があります。その魅力とは、各ページに漲る勢い。各場面に登場する「きたかぜ」も「たいよう」も「たびびと」もそれぞれが絵本のページから飛び出してきそう。版木を彫って直に着彩する木彫画で描かれた、実に迫力のあるイラストです。

 紀元前600年頃の人物とされるイソップの物語は、様々な文化圏に広がり、地域や言語、人種の違いを超えて、全世界で愛読されています。幼い子ども達にもわかりやすいシンプルなストーリーと貴重な教訓が込められていることが魅力。日本では、16世紀の末にイエズス会の宣教師により『イソポのハブラス』として紹介され、明治時代に入って修身の教科書に取り入れらた位、古くから親しまれていますので、タイトルを言えば、すぐにそのストーリーが思い出されるのではないでしょうか。

 「きたかぜとたいよう」は読むたびに、反省を促され、何度読んでも、あたたかく心に響き、心に痛い物語です。ついつい、いつの間にか、「きたかぜ」のような考え方をしてしまいがち。家族における親子関係や夫婦関係、職場の上司と部下、教育現場での教師と生徒、友人関係など、幼い子どもから老人に至るまであらゆる年代にとっての教訓、人生訓となりうる物語ではないかと思います。

 本書は、蜂飼耳(詩人・小説家・エッセイスト)の再話により、岩崎書店から刊行されたシリーズイソップ絵本の最終巻です。『オオカミがきた』(ささめやゆき・絵)、『いなかのネズミとまちのネズミ』(今井彩乃・絵)、『ライオンとネズミ』(西村敏雄・絵)、『ウサギとカメ』(たしろちさと・絵)に続いて刊行されました。イソップの物語の中から5つの寓話を厳選し、新進気鋭の語り手と最先端のイラストレーターを起用した岩崎書店の企画を高く評価し、「きたかぜとたいよう」の新たな秀逸絵本として、本書をお薦めします。

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2011年5月21日 (土)

宇梶静江 古布絵展 @小淵沢 フィリア美術館

  毎日があわただしく過ぎる中、気分転換に小淵沢まで出かけて来ました。

  フィリア美術館 で開催中の宇梶静江 古布絵展 を見るためです。

 大学時代の友人と新宿で待ち合わせ、新幹線に乗って行きました。途中、甲府で乗り換えるのを忘れてしまう位、話に夢中になって、小淵沢に着いた時も、うっかり・・・という位、一日中おしゃべりを楽しみました。

 アイヌの伝統の刺繍と日本の伝統の和服地を組み合わせた手法で描かれた古布絵から、力強いオーラと込められている深い思いが感じられました。とにかく力強いというのが第一印象です。

 絵本の原画となっている作品の展示でしたが、どの絵本もアイヌの伝承物語の再話です。作者は、アイヌの解放運動家であり、アイヌ文化の伝承者です。

 60歳を過ぎて本格的に始めたアイヌ刺繍・・・・ そのひと針、ひと針に込められた作者のアイヌへの思いの深さを感じ、ひとつひとつの作品の前で立ち止まり、その世界に引き込まれていきました。

 しまふくろうが、生きているようです。今にも絵の中から飛び出しそうな勢いで、じっとこちらを見据えていました。

  せみの羽が何とも繊細で美しく描かれて(刺繍されて)います。

  古布絵の美しさと力強さに圧倒され、心が洗われるようでした。会場には、ケーテ・コルヴィッツの作品もあり、見ごたえのある美術館です。

 ランチとお茶は、リゾナーレ  のレストランとカフェ。食事は、樹木の下で心地よい風に吹かれながらいただきました。ここはお薦めです。 一日、小渕沢で過ごし、大人の遠足気分。体調不良の転地治癒となりました。

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2010年4月 9日 (金)

グリム童話の魅力が現代に脈々と生き続けていることを感じさせてくれる絵本

ヘンゼルとグレーテル―グリム兄弟の童話から Book ヘンゼルとグレーテル―グリム兄弟の童話から

著者:ヤーコプ・ルードヴィヒ・グリム,ヴィルヘルム・カール・グリム
販売元:平凡社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 19世紀の初めにグリム兄弟が人々の間に語り伝えられてきた話を集めて書きしるした『グリムの昔話』(原題:子どもと家庭のメルヘン)には200あまりの話がおさめられていますが、「ヘンゼルとグレーテル」は、その中でも代表的な話のひとつです。
 「ヘンゼルとグレーテル」と言えば、まず、お菓子の家、ヘンゼルをかまどの火で焼いて食べようとする怖ろしい魔女、二人の子ども達を森の奥に捨てる残酷な継母、そして、その背景にある貧しさと飢え…。

 本書の画家カトリーン・ブラントは、1967年に最初の絵本『こびととくつや』を出版し、翌年ドイツ児童図書賞を受賞、2004年に『魚師とおかみさん』を出版後、長い年月を経て、本書の挿絵を描きました。
 ブラントは、お菓子の家を色とりどりの美しいお菓子ではなく、ドイツのレープクーヘンという伝統的な焼き菓子を用いて地味に描いています。そして、絵本の背景を真っ黒に塗りつぶし、当時の貧しく、過酷な環境を暗示しています。
 二人をつかまえた魔女は、どこかしらまぬけな表情をしています。幼いグレーテルにかまどの火で焼かれてしまうのですから、本当にまぬけな魔女だったのでしょうか。
 ヘンゼルとグレーテルの二人が継母のたくらみを知った時のおびえ、暗い森の中を歩く時の不安、森に置き去りにされた時の悲しみ、魔女に見つかったときのおどろき、魔女から解放された時の喜び…ブラントは二人の子ども達の表情、特に目の表情をくきやかに描いています。二人の父親であるきこりの姿や継母の姿は描いていません。二人の子ども達の姿を通して、『ヘンゼルとグレーテル』は、飢えや貧しさに出会って二人が自立し、成長していく物語であることを浮き彫りにしたかったからでしょうか。物語の全てを描かず、読者の想像に委ねた作者の懐の大きさを思いました。
 二人を森の奥の魔女の家に導く白い鳥、また、二人が森をぬけ出すために大きな川を渡るのを助ける白いあひる(異界と現実世界の橋渡しをする鳥の役割)、兄のヘンゼルに頼り切っていた妹のグレーテルが機転を利かせ、兄を救い、森から抜けだした時のいきいきとした笑顔や背景の黒と白のコントラストを通して『ヘンゼルとグレーテル』の物語に込められたメッセージがシンプルかつ十分に描き出されていることを感じます。
 人々の口から口へと語り継がれた物語を再話するにあたって、現代を生きる私たちの心に届くシンプルで洗練された言葉に翻訳されていることも本書の特長でしょう。グリム童話の魅力が現代に脈々と生き続けていることを感じさせてくれる絵本です。

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2010年4月 5日 (月)

2009年に刊行された絵本のガイドブック 絵本の今を知りたいあなたへ、また、絵本を深く広く味わいたいあなたへお薦めの一冊

この絵本が好き!〈2010年版〉 Book この絵本が好き!〈2010年版〉

販売元:平凡社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 本書は、「別冊太陽」の絵本シリーズの中で2003年度版から始まり今年で8年目を迎える毎年恒例の絵本ガイドブック。
 「2009年の絵本ベスト28(国内絵本13冊/海外翻訳絵本15冊)」の発表と総評、そして、「絵本好き108名のアンケート」の一挙掲載をメインとして、「現代の絵本界を牽引する作家たち 太田大八 モーリス・センダック」や<没後三十年> 「瀬田貞二の絵本世界」の特集の他、特別企画「絵本のことば」や追悼記事(かがくいひろし・滝平二郎)など、2009年に刊行された絵本の情報が満載されています。

 国内絵本1位は『いそっぷのおはなし』、海外翻訳絵本の1位は『ないしょのおともだち』
 2009年国内絵本総評(解説 小野明)の冒頭で「たしかに二〇〇九年、昔話絵本は堅調でした」と述べられている通り、四月に全二十四巻の<日本名作おはなし絵本>(小学館)のシリーズが始まり、十二月に広松由希子・文の<いまむかし絵本>(岩崎書店)の刊行が開始されています。国内絵本1位もイソップの昔話の再話でした。
 創作物語絵本ではなく、昔話の再話がトップに選ばれていることを総評や<特別企画>「絵本のことば」の「再話絵本の系譜」(野上暁)、<エッセイ>「イソップをめぐって」(蜂飼耳)を読みながら考えさせられました。2位以下は、本書を読んでからのお楽しみです。

 巻末の「2009年刊行絵本リスト 国内編/海外編」と「絵本好き108名のアンケート」は、絵本に関する貴重な情報源。アンケートの回答者である「絵本好き108名」は、司書、絵本専門店関係者、教員、保育士、編集者、研究者など絵本に関わる専門家です。巻末まで丁寧に読むと、一年間に刊行された絵本を概観することができ、ベスト絵本の選にもれた名作を見出すことができます。

 <エッセイ>「時代の変わり目」(ひこ・田中)の「新しい時代の変わり目を絵本でどう提示するかの試みが、今こそ必要です」という提言と「二〇〇九年の児童書について」(赤木かん子)の「時代の過渡期に子どもの本の世界が音を立てて方向転換しているのだ」というコンピューター時代における絵本の世界の変化への思いを専門家ならではの鋭い洞察として受けとめました。

 本書は絵本の今のあらゆる魅力に満ちているだけでなく、絵本のこれからへ向けての専門家の厳しい批評や鋭い洞察も込められています。絵本の今が知りたいあなたへ、また、絵本を深く広く味わいたいあなたへお薦めしたい一冊です。

 bk1今週のオススメ書評に選んでいただきました。(2010年4月9日)

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2009年11月 7日 (土)

出久根育『十二月の月たち』絵本原画展@教文館子どもの本のみせ ナルニア国

20091105_2  昨日は、久しぶりに高校時代の友人と3人でランチをしました。銀座の街はクリスマスの装いを始めていることを感じました。帰りに、教文館子どもの本のみせ ナルニア国に立ち寄りました。

(写真は銀座ミキモト本店前、お気に入りのスポットです。)

 

 

 ナルニア国では、出久根育『十二月の月たち』絵本原画展が開催中でした。

 『十二の月たち』は、チェコやスロヴァキアのスラブ地方に伝わる民話で、日本ではマルシャークの再話で「森は生きている」として知られています。演劇としてご覧になった方も多いかと思います。

十二の月たち (世界のお話傑作選) Book 十二の月たち (世界のお話傑作選)

著者:ボジェナ ニェムツォヴァー,出久根 育
販売元:偕成社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 出久根さんが澄んでいる首都プラハは10月には雪が降り始めるとのこと。この本を描くために北東ボヘミアのクルコノシェ山地に登られたそうです。原画を観て、雪山の頂上へと一人寂しく向かうマルシェカの表情がしみじみと感じられました。雪山の中では、人間なんて本当に無力な存在なんだということが臨場感あふれる絵と語りを通して伝わってきました。

 会期:2009年10月31日(土)~12月25日(金)

 今年は、クリスマスプレゼント用に年齢別絵本コーナーが設けられていて、ロングセラーん絵本からすてきな作品がセレクトされて並べられていました。お子さんやお孫さんへの絵本のプレゼントはいかがでしょうか。もちろん、読み聞かせ付きで・・・♪

 9階のウェンライトホールでは「ハウス・オブ・クリスマス」として洗練されたクリスマス雑貨(ヨーロッパ直輸入製品)が販売されていました。

Photo  私が購入したのはROBERT SABUDAのPOP-UPクリスマスカード (26枚のカードと封筒付きで2,100円とお買い得でした。

 来年のカレンダー(ぐりとぐら、ムーミン、林明子の世界など)も出揃っていました。

追記 クリスマスまであと50日。過去に書いたクリスマス絵本、童話のレビューを再更新しました。

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2009年7月23日 (木)

早川純子 『山からきたふたご スマントリとスコスロノ』原画展@ビリケンギャラリー

 今日は、芸術鑑賞の一日、一人の時間をたっぷり楽しみました。

 まず最初にアール・ブリュット(生の芸術)の重要な作家として高く評価されているアロイーズ展に行きました。外苑前のワタリウム美術館にて8月16日まで開催中です。言葉では尽くせないほどの思いに包まれました。会期中は何度でも入れるというお得なチケットですので、あと数回訪れてみたいと思っています。

 外苑前から青山通りを渋谷方向に歩き、ピンポイントギャラリーで開催中の「赤ずきん展」第10回絵本コンペ記念企画展ー20人の絵本作家による赤ずきんーに立ち寄りました。小さなギャラリーですが、いつも素敵な展示が楽しめます。

山からきたふたご スマントリとスコスロノ―影絵芝居・ワヤンの物語より (日本傑作絵本シリーズ) Book 山からきたふたご スマントリとスコスロノ―影絵芝居・ワヤンの物語より (日本傑作絵本シリーズ)

著者:乾 千恵
販売元:福音館書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 そして、青山通りをさらに渋谷方向に歩き、骨董通りに入り、ビリケンギャラリーに向かいました。ココナッツ・カフェのチョムプーさんが紹介されていた早川純子 『山からきたふたご スマントリとスコスロノ』原画展が29日まで開催中です。

 一言、すばらしかったです! 出来上がった絵本もその途中で作成された版画の原画も・・・、そして、早川純子さんご本人も。それから、このギャラリーにて販売されている絵本や児童書も。

 過去2回ほど立ち寄ったことがありましたが、今回ほど、ゆっくりと落ち着いてギャラリーの中を観たことがありませんでした。早川さんともお話ができ、お店の方とも子どもの本の復刊のことやすてきな絵本のことなどいろいろとお話ができました。

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2009年7月18日 (土)

鼎談「狸どもの恩恵? -物語がうまれるとき」 梶山俊夫(画家)+高桜方子(作家)+アーサー・ビナード(詩人)@津田ホール

 昨日は津田ホールで開催された下記の鼎談を聴講しました。

 画家・作家・詩人、それぞれの創作の源をたどって

 鼎談「狸どもの恩恵? -物語がうまれるとき」

 梶山俊夫(画家)+高桜方子(作家)+アーサー・ビナード(詩人)

  画家、作家、詩人それぞれの創作の舞台裏を、「昔話」の豊かな土壌から作品が生み出される過程を通して語り合う

  •  7月17日(金)
  •  18:00~19:30
  •  津田塾大学千駄ヶ谷キャンパス 津田ホール

 主催:津田塾大学 後援:津田塾大学同窓会 協力:JBBY

ものしりプクイチ (教育画劇の創作童話) Book ものしりプクイチ (教育画劇の創作童話)

著者:たかどの ほうこ
販売元:教育画劇
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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2009年2月 1日 (日)

時間と死を超えた愛の物語  『ミリー 天使にであった女の子のお話』

 『ミリー —天使にであった女の子のお話—』は、1816年、ヴィルヘルム・グリムが母を亡くしたミリーという少女に宛てた手紙に添えられた物語です。ヴィルヘルムは兄のヤーコプと共にグリム童話の収集家として知られています。

 ヴィルヘルムの手紙は、小川を流れる花と夕ぐれの山を越えて飛んでゆく鳥をモチーフとした詩的で美しい文章で綴られています。ミリーの家族が所有していた物語が売却され、1983年に出版社の手に渡ったことから、すぐれた絵本作家モーリス・センダックとの出会いがありました。5年がかりで描かれたというセンダックの渾身の絵が添えられています。

 夫に死に別れた女性が、ある村のはずれに、たった一人残された娘と住んでいました。娘は気立てもよく可愛い子でした。お祈りを朝晩欠かさず、スミレやローズマリーを花壇で上手に育てる娘には、きっと守護天使がついているに違いないと母親は信じていました。
そんな二人に戦争が押し寄せてきます。母親は戦争から娘を守るために、森の奥に娘を逃がしてやりました。森の奥深くで聖ヨセフと出会い、娘の守護天使である金髪の美しい女の子と出会い、3日間を過ごし、母親のもとに戻ると、30年の年月が過ぎていました。
母親は30年の年月を経て、また、大戦争の恐ろしさと苦しさを経て、すっかり老いていますが、娘は、昔と同じ服を着て、昔と同じ姿のまま母親の前に立っています。再会を果たした二人は・・・。
 3日が30年という不思議な時間軸の中で、戦争という悪、信仰、母と子の愛、神の愛が語られています。ヴィルヘルムが生きた古いドイツは、当時ナポレオンの占領下に置かれたり、フランス軍の占領下に置かれたり、非常に不安定な時代でした。物語の中で、ミリーと守護天使の無垢な美しさと戦争の醜さがコントラストをなしています。

Photo この物語を通して、ユングの弟子であったマリー=ルイーゼ・フォン・フランツの「昔話は、普遍的無意識的な心的過程の、最も純粋で簡明な表現です。それは、元型を、その最も単純であからさまな、かつ簡潔な形で示しています。」という言葉を思いました。ミリーが過ごした深い森は、人間の普遍的無意識とも思えます。小川に流した花が、ずっと離れた場所で別の女の子が流した花と出会うように、また、夕ぐれの山を越えて飛ぶ鳥が最後の日の光の中で、もう一匹の鳥と出会うように、人間は普遍的無意識の中で、母の愛や神の愛の元型と出会えるのではないかと予感させられました。
 ヴィルヘルムの慈しみに満ちた手紙に始まる『ミリー』は、時間と死を超えた愛の物語と言えるかもしれません。モーリス・センダックの幻想的で美しい絵と神宮輝夫氏の美しい日本語が、絵本の芸術性を高めていることを感じます。

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2009年1月30日 (金)

どんどんどんどん増え続けるものへの恐れとそれを留める不思議な力  『にげだしたひげ』

 むかし、むかし、スリランカという国に、小さな村がありました。その村のじいさんたちはひげを長くのばしていました。ひげが長くなるとまな板で魚をきるように包丁でひげを切ってもらっていましたが、ハンプじいさんだけは、ねずみにひげをかじってもらっていました。
じいさんがねずみにごはんをあげると、ねずみはお礼にじいさんのひげをがじってあげるのでした。仲良く暮らしていたじいさんとねずみでしたが、ある日のこと、ねずみの歯が丸くなってしまい、かじってもかじってもひげは短くなりません。
 ひげはたちまち部屋いっぱいにのびて、外へ飛び出してゆきました。パンプじいさんときたら、ひげにうずもれて、その中でぬくぬくと眠っています。ところがひげは、そこらじゅうをぐるぐるぐるぐる巻いて、どんどんのびてゆきました。ぐんぐん ぐんぐん ぐるぐる ぐるぐる。村中が大変なことに・・・。ひげに追いかけられた少女ラトゥマニカは、家にかけこむとひげの先を引っ張って、ある場所に突っ込みました。さて、ラトゥマニカはひげの先をどうしたのでしょう。

 「おいしいおかゆ」というグリムの昔話を思い出しました。小さなお鍋が、ぐつぐつぐつぐつおかゆを煮続けて、町中がおかゆでいっぱいになるお話です。
どんどんどんどん増え続けるものへの恐れとそれを留める不思議な力。『おじいさんのひげ』も『おいしいおかゆ』も、増え続けるものを止めたのは女の子でした。
 ヨーロッパのドイツで生まれたグリムのお話とアジアのスリランカで生まれたお話に共通する不思議な世界。人間の無意識の混沌を思いました。そして、その混沌から人間を放つものがいかに単純なものであるかを思いました。単に愉快なだけでなく、奥深い物語、シビル・ウェッタシンハのイラストが生き生きとのびてゆくひげを描いて、豪快です。

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ロシア版シンデレラ物語ー芸術性の高い絵本として復刊を希望ています。  『うるわしのワシリーサ』

 物語の主人公は、美しいワシリーサという女の子。
 8歳の時に母親に先立たれたワシリーサは、意地の悪い継母に引き取られ、二人の連れ子と継母の三人からひどい仕打ちを受けながら働かされますが、実母から授かった魔法の人形がワシリーサを救います。
 ロシアの魔女(鬼婆)ババ・ヤーガが登場し、ロシアの森を背景に繰り広げられる物語。『うるわしのワシリーサ』はロシア版シンデレラ物語と謳われているロシア昔話です。
法律学を学ぶかたわら、絵画学校に通ったイヴァン・ビリービンは、バレエの舞台装置や衣装デザインをてがけるかたわら、ロシアの昔話や童話のイラストを描き、芸術性の高い作品を遺しています。
 絵本が出版されたのが20世紀初頭の1902年。
 ビリービンは、本の一ページ一ページを表現の重要なフレームと見なし、縁飾りやレタリングとイラストレーションを一体化させて、本全体を一つの独立した芸術世界としています。
 シリーズほるぷクラシック絵本の16冊中でも、とりわけ美しい大型絵本です。物語もイラストも芸術性が高く、ぜひこれからも読み継いで欲しい絵本です。現在絶版ですので、復刊を希望しています。

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