迫力のある「きたかぜとたいよう」の秀逸絵本
久しぶりにイソップ物語のすてきな絵本に出会いました。
既刊の絵本の中では、ブライアン・ワイルドスミスの絵による『きたかぜとたいよう』(らくだ出版)やバーナデット・ワッツの絵による『きたかぜとたいよう イソップ童話』(西村書店)を選んで子ども達に読み語りをしましたが、本書には、それらとは異なる魅力があります。その魅力とは、各ページに漲る勢い。各場面に登場する「きたかぜ」も「たいよう」も「たびびと」もそれぞれが絵本のページから飛び出してきそう。版木を彫って直に着彩する木彫画で描かれた、実に迫力のあるイラストです。
紀元前600年頃の人物とされるイソップの物語は、様々な文化圏に広がり、地域や言語、人種の違いを超えて、全世界で愛読されています。幼い子ども達にもわかりやすいシンプルなストーリーと貴重な教訓が込められていることが魅力。日本では、16世紀の末にイエズス会の宣教師により『イソポのハブラス』として紹介され、明治時代に入って修身の教科書に取り入れらた位、古くから親しまれていますので、タイトルを言えば、すぐにそのストーリーが思い出されるのではないでしょうか。
「きたかぜとたいよう」は読むたびに、反省を促され、何度読んでも、あたたかく心に響き、心に痛い物語です。ついつい、いつの間にか、「きたかぜ」のような考え方をしてしまいがち。家族における親子関係や夫婦関係、職場の上司と部下、教育現場での教師と生徒、友人関係など、幼い子どもから老人に至るまであらゆる年代にとっての教訓、人生訓となりうる物語ではないかと思います。
本書は、蜂飼耳(詩人・小説家・エッセイスト)の再話により、岩崎書店から刊行されたシリーズイソップ絵本の最終巻です。『オオカミがきた』(ささめやゆき・絵)、『いなかのネズミとまちのネズミ』(今井彩乃・絵)、『ライオンとネズミ』(西村敏雄・絵)、『ウサギとカメ』(たしろちさと・絵)に続いて刊行されました。イソップの物語の中から5つの寓話を厳選し、新進気鋭の語り手と最先端のイラストレーターを起用した岩崎書店の企画を高く評価し、「きたかぜとたいよう」の新たな秀逸絵本として、本書をお薦めします。
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