アンデルセンの童話をより深く味わうためにお勧めのアンデルセン伝 『アンデルセンー夢をさがしあてた詩人』
子どもの頃くり返し読んだアンデルセンの童話を大人になって読み直してみると、子どもの頃の新鮮な感動が甦ると同時に、子どもの頃には感じることができなかった人生の知恵や弱者への愛、詩やユーモアを行間に読み取ることができて、深い味わいがあります。
最近『完訳 アンデルセン童話集』(岩波文庫)の全7巻を読みました。“完成された形式”、それぞれの物語に流れる詩情、文体のもつはつらつさ・・・アンデルセンの童話には他の作家には見られない特徴があります。童話作家として不動の世界的名声を得たアンデルセンですが、その生涯は決して恵まれたものではありませんでした。
デンマークのオーデンセに貧しい靴職人の子として生まれながら、幼い頃から有名になることを夢みていました。そして、わずか14歳の若さで俳優を志し単身でコペンハーゲンに向かいます。
貧困、祖父と父親の精神異常、背が高く不恰好、異常に繊細な感受性、孤独癖、無教養、俳優として報われない努力、そして、報われない恋と放浪・・・。
ルーマ・ゴッテンによる『アンデルセン 夢をさがしあてた詩人』は、童話作家アンデルセンの詩人としての特質に焦点を絞って、その生涯を辿っています。自らも児童文学作家である著者は、編年体ではなく、アンデルセンの童話を巧みに引用しながら、その内面的な葛藤を語り、アンデルセンの実人生がいかに童話に反映されているかを説き明かします。
「たとえば『心からの悲しみ』の中には不幸せ、『みにくいアヒルの子』には彼の苦悩、『モミの木』には彼の野望が、というように。そして『しっかり者の錫の兵隊』には、彼の魂といってよいものがこめられています。」(同著289ページより引用)
アンデルセンの作品には必ずと言ってよいほど、アンデルセン自身が何らかの形で投影されていると言われています。アンデルセンの人生を知ると、その作品の味わいがさらに深くなるのではないでしょうか。
同著は、恵まれない境遇から自らを世界的童話作家へと成らしめたアンデルセンの詩人としての素質と愛すべき清純さ、そして堅忍不抜の精神を見事に浮き彫りにした秀逸のアンデルセン伝です。
アンデルセン自らが綴った『アンデルセン自伝』(岩波文庫)と『アンデルセン自伝』の第一章(誕生から14歳でコペンハーゲンに出発するまで)を絵本にふさわしく構成した『アンデルセン自伝 わたしのちいさな物語』(あすなろ書房)と合わせてお勧めします。
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