[戦争と平和]

2013年11月17日 (日)

テレジンの小さな画家たち・詩人たち

  去る11月8日(金)西南学院大学コミュニティセンターで開催された「小さな画家たち詩人たち~「平和」みるきくつたえる展」のテレジン収容所のこどもたち絵画展に立ち寄り、野村路子さん講演会&ミニコンサート夜の部を聴講、拝聴しました。
  実は、この展示会を観るのは、今回で3度目です。1度目が1998年東京の田無市(現・西東京市)で開催された「野村路子氏による講演会とテレジン収容所の子どもたちの絵画展」、2度目は2011年8月に北九州市立戸畑生涯学習センター1階ギャラリーで開催された「テレジンの小さな画家たち詩人たち」(鍬塚さと子さん主催)こちら参照、そして、今回。このたびは、鍬塚さと子さんに声をかけていただき、野村路子先生に食事会でお目にかかることができました。テレジンの子どもたちとの不思議な縁を感じています。
Photo
 
 第二次世界大戦中、ナチスドイツの支配下にああったチェコスロヴァキア(当時)のテレジン収容所には、15000人の子ども達も収容されていました。その子ども達のほとんどがアウシュヴィッツに送られ殺されました。生き残った子ども達は100人に満たないと言われています。
 戦争が終わりドイツ軍が去ったあと、収容されていた子どもたちが描いた4000枚の絵と数点の詩が残されていました。作家の野村路子さんは、「この絵を日本の子どもたちに見てもらいたい」と、プラハのユダヤ博物館に交渉し、1991年から日本の各地で展覧会を開きテレジンの子ども達のことを伝えています。
 強制収容所の中で、食事も満足に与えられず、1日中、重労働に駆り立てられていた幼い子ども達に、文学や演劇、美術や音楽の専門家たちが、歌を歌い、絵を描き、詩を作ることを教えたのだそうです。 絵を描き、詩を作るという行為が、収容所の環境の極限状態の中で、子ども達に明日への希望を与えたということを知らされました。
 テレジンの子ども達の絵を見るたびに、不思議な力が与えられます。どんな時も希望を持って生きよと。
 テレジンの小さな画家たち詩人たちは来年は長崎で開催が予定されているようです。さと子さんのブログをご覧になってください。
 
 
 

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2012年8月 9日 (木)

原爆を記憶にとどめるために 

 毎年、広島と長崎の原爆の日には、黙祷を捧げ、そして、原爆に関する書籍を読んでいます。

 今年は、畑島喜久生氏の『東日本大震災詩集 日本人の力を信じる』(リトル・ガリバー社)を読みました。

 長崎原爆の被爆者でもある著者は、81歳の誕生日を過ぎて、東京で東日本大震災を体験しました。原爆症の認定を受け、前立腺がんを患い、脳の血管障害、心臓の欠陥を抱えながらも、福島原発による放射能汚染と被災という現実に目をつぶってはおれず、数十年ぶりに綴った「詩」~それは、「被災した地域の人たちへのエールであり、日本人全ての「絆」を信じるというもの」。(下線部は同著より引用)

 世界で初めて原爆の被害を受けた日本で起きた原発事故。

 くり返してはならないはずの原子力による悲劇。

 被爆者である著者でしか語ることのできないことばと思い、そして、過去の苦しみを未来への希望に託す善意に満ちた一冊でした。

 今年も、原爆を記憶にとどめ、平和への祈りを捧げ続けたいと思います。

<過去関連記事>

・原爆を記憶にとどめるために  2009年8月6日 

・原爆を記憶にとどめるために 思い出の絵本No.10『八月がくるたびに』 2009年8月9日 

・思い出の絵本 No.11 『八月がくるたびに』  2009年9月19日 

・原爆を記憶にとどめるために 8月9日長崎原爆の日 2010年8月 9日 (月)

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2012年3月20日 (火)

(シャロン・ドガー著・野沢佳織・訳)『隠れ家 アンネ・フランクと過ごした少年』(岩崎書店)

  世界中で読み継がれ、大ベストセラーとなっている『アンネの日記』。アンネ・フランクは自らの意志を日記の中で誰に臆することもなく綴ったことで、勇気ある少女として世界中の称賛を浴びました。その日記に登場するペーター・ファン・ペルスが、作家シャロン・ドガーによって、物語の主人公として蘇りました。
 ペーターは、アンネが恋に似た気持ちを抱きかけた少年です。アンネにとっては、日記を書き続けることや将来の夢という、恋よりも大切なものがありました。しかし、ペーターにとってアンネは死の際まで心を占めた存在…。

 ぼくはもう死んだけれど、耳をすませばきっと、きみにもぼくの声が聞こえるはずだ。

 きみはまだそこにいるのか?
 ぼくの話を聴いているのか?

 ペーターは、死の時を迎えてもなおアンネに語りかけています。『アンネの日記』では、登場人物の一人に過ぎなかった少年が、自らの叶わなかった恋やアンネへの複雑な思い、そして、ホロコーストの犠牲者となった心中を死の際まで語り続けます。
 
 物語は、ペーターが死の時を迎え、隠れ家での日々を回顧するプロローグにはじまり、アンネ・フランクの家族と共に潜伏生活を送った2年間を綴った第一部「隠れ家」、そして、ドイツ秘密警察に捕まり、アンネと離れ離れになった後の収容所での生活を綴った第二部「強制収容所」から構成されています。
 第一部では、ペーターの視点で『アンネの日記』を再読しているかのような感触を覚え、第二部では、ペーターの視点でフランクル博士の『夜と霧』を再読しているかのような感触を覚えました。『アンネの日記』の登場人物がそのまま立ち上がってくるようです。アンネによって語られたペーター像を損なうことなく、ペーター・ファン・ペルスをより人間味を持った少年として感じることができます。

 1947年の刊行以来、60年余りにわたり世界中で読まれてきた『アンネの日記』が、今、新たな形で蘇り、ナチス・ドイツのホロコーストの事実を語ります。ホロコーストは風化させてはならない歴史的事実の一つです。こうして、新たな少年の視点でホロコーストを語ることに意義を感じ、本書をヤングアダルト世代の少年少女達に必読の物語としてお薦めします。

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2010年8月 9日 (月)

原爆を記憶にとどめるために 8月9日長崎原爆の日

 毎年、広島と長崎の原爆の日、終戦記念日には、黙祷を捧げています。そして、大江健三郎氏の選による原爆をテーマにした13編の作品集である『何とも知れない未来に』という文庫本を読みます。

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 今年は、夫の仕事の関係で長崎市松山町の平和公園、そして、原爆落下中心地を訪れて、黙祷を捧げました。実際にその地を訪れ、二度と起きてはならない惨事として、心に刻みました。

 65年目の原爆の日、65年経た今も被爆者の方々、そして、家族を失った方々の悲しみは終わらない。 核兵器が廃絶しない限り、原民喜が『心願の国』の中で語った通り、「未来は滅亡か救済か、何とも知れない」のではないでしょうか。

 原爆を記憶にとどめ、平和への祈りを捧げ続けたいと思います。

・原爆を記憶にとどめるために  2009年8月6日 

・原爆を記憶にとどめるために 思い出の絵本No.10『八月がくるたびに』 2009年8月9日 

・思い出の絵本 No.11 『八月がくるたびに』  2009年9月19日 

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2010年8月 7日 (土)

平和への祈りと明日への希望 ~「テレジンの小さな画家たち詩人たち」~@北九州

 去る8月3日、北九州市立戸畑生涯学習センター1階ギャラリーで開催中の「テレジンの小さな画家たち詩人たち」に立ち寄りました。
 
 主催は、さと子の日記広場の鍬塚さと子さん。
 北九州市立戸畑生涯学習センター1階ギャラリー
 2010年8月3日~8日まで開催


Cimg2358  第二次世界大戦中、ナチスドイツの支配下にああったチェコスロヴァキア(当時)のテレジン収容所には、15000人の子ども達も収容されていました。その子ども達のほとんどがアウシュヴィッツに送られ殺されました。生き残った子ども達は100人に満たないと言われています。
 戦争が終わりドイツ軍が去ったあと、収容されていた子どもたちが描いた4000枚の絵と数点の詩が残されていました。作家の野村路子さんは、「この絵を日本の子どもたちに見てもらいたい」と、プラハのユダヤ博物館に交渉し、1991年から日本の各地で展覧会を開きテレジンの子ども達のことを伝えています。

 実は、この展示会を観るのは、今回で2度目です。1998年東京の田無市(現・西東京市)で開催された「野村路子氏による講演会とテレジン収容所の子どもたちの絵画展」以来、12年ぶりにテレジンの子ども達の絵と詩に再会しました。

 12年前、障害を抱えた娘が思春期を迎え、いろいろな問題行動に母親として苦しんでいました。努力の及ばないことも多く、母親として行き詰っていた時、偶然通りかかった田無市民会館で、子ども達の絵に出会い、野村路子さんの講演を聴きました。

 強制収容所の中で、食事も満足に与えられず、1日中、重労働に駆り立てられていた幼い子ども達に、文学や演劇、美術や音楽の専門家たちが、歌を歌い、絵を描き、詩を作ることを教えたのだそうです。 絵を描き、詩を作るという行為が、収容所の環境の極限状態の中で、子ども達に明日への希望を与えたということを知らされました。

 ホロコーストの犠牲になった子どもたちが最期まで希望を失わずに生きたこと、それを支えたクリエイティブな大人たちがいたことを知り、私の心に光が射しました。

 どんな状況に置かれても明日への希望を失ってはならないと。

 その思いを託した短歌が、さと子さんとの不思議なご縁で会場に掲載されました。

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・野村路子語るテレジンの収容所一万五千人の幼らの無惨
・幼らの生死も労働に分かつなるテレジンはアウシュヴィッツへの門
・亡命を拒みてナチスに捕らわれしディッカー先生若き日バウハウスに学ぶ
・子とめぐるテレジン収容所の絵画展鎖のごとく重き心に
・子らの絵に書き添えらるる子らの名とアウシュヴィッツに送られし日と
・花の野に蝶高く飛ぶ絵の多し蝶は人より大きく描かれて
・団らんの絵の片隅に番号のつけられし収容所のベッドが並ぶ
・セーターをほどきし毛糸に描きたる赤き花ドイツ軍の書類の上に咲く

       「未来」1999年1月号 近藤芳美選 二十人集より

 
 詳細は、鍬塚さと子さんのブログ@もも日記をご覧ください。
 
・ダイアローグ http://momo.satokono.littlestar.jp/?eid=991116
・戸畑会場二日目 http://momo.satokono.littlestar.jp/?eid=991267
・戸畑会場三日目 http://momo.satokono.littlestar.jp/?eid=991371
・テレジン展は4日目
 http://momo.satokono.littlestar.jp/?eid=991487


・「テレジンの小さな画家たち詩人たち」
  http://momo.satokono.littlestar.jp/?cid=47070

 若い方からご高齢の方まで会を支えている方々の熱意と平和への祈りに満ちたすてきな会場でした。

テレジンの小さな画家たち―ナチスの収容所で子どもたちは4000枚の絵をのこした Book テレジンの小さな画家たち―ナチスの収容所で子どもたちは4000枚の絵をのこした

著者:野村 路子
販売元:偕成社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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2010年5月 7日 (金)

絵本作家:小林 豊さんのお話『今子どもたちに伝えたいこと』

 今日は、この本だいすきの会 ねりま支部主催の練馬区教育委員会委託 子育て支援学習講座で、小林豊氏(絵本作家)のお話を伺いました。「せかいいちうつくしいぼくの村」、「ぼくの村にサーカスがきた」、「せかいいちうつくしい村へかえる」 以来、小林作品のファンですので、こひつじ文庫のマーガレットさんからお知らせがあって以来、楽しみにしていました。

あいたい友だち (どんぐりえほんシリーズ) Book あいたい友だち (どんぐりえほんシリーズ)

著者:小林 豊
販売元:佼成出版社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 新作『あいたい友だち』のマーガレットさんによる読み語りに始まり、小林さんが絵本を通して、読者(子ども達)に伝えたいことや絵本を描く(書く)にあたって大切にしていること、取材旅行で印象に残ったことや今の社会に対して思うことなどが語られました。
 『あいたい友だち』には、取材旅行で訪れた国の中で、いちばんことばがあった(交わされていた)地域を描かれたとのこと、ボスボラス海峡からはじまり、スペインの港や中東の国境、バルカン半島など、ページをめくりながら、それぞれの地域で感じたことをエピソードを交えながら語ってくださいました。

 ・絵本を描く(書く)のは子ども達のため。
 ・自分の生活の場から見えることは限られているので、絵本を描く(書く)ために取材旅行に行ったり、子ども達と語り合うように努めている。また、子どもの興味(疑問)に絵本の中で答えられるように努めている。
 ・絵本を描きはじめた最初から「ぼくの村」について描いて(書いて)いる。
 ・歴史の流れの中で、今自分が見た「村」を描いて(書いて)、いろんな視点、いろんな価値観、いろんな村があるということを次の世代に提示していきたい。
 ・平和を希求するよりも、なぜ、戦争を起こしたのか?という検証が必要。
 ・戦争の被害者にみんなで同情するという視点では、これからの絵本は書けない(描けない)
 ・今は、世界が行き詰って、どこに向かっているのか分からない時でもあるが、それは、考え直し、思い直し、子ども達と語り合う良い動きができる時でもある。etc...

 全てが先生の経験に基づいたユーモアたっぷりのことばで語られ、あたたかく心に響きました。

 テレビや新聞、雑誌を通して伝えられる情報のことばには、全て意図して作られたストーリーがあるので、大人がその一つ一つを検証して、子ども達と共に語り合う必要があるということなど、絵本に描かれた諸外国の風景と人々の様子から現代社会の行き詰まりや問題点が浮き彫りにされ、今、大人(親)として、子ども達に伝えるべきこと、知らせるべきことを教えていただき、大変有意義な会でした。

 小林豊先生、マーガレットさんをはじめ、この本だいすきの会 ねりま支部の皆様、ありがとうございました。

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2010年4月23日 (金)

子ども達に国際理解を促し、戦争と平和について考える機会を与えてくれる絵本

 ともだちのしるしだよ ともだちのしるしだよ
販売元:セブンネットショッピング(旧セブンアンドワイ)
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 緑のない山々、砂煙があがりそうな土、立ちならぶ粗末なテント…。
 絵本の舞台はアフガニスタンとパキスタンの国境にあるベシャワールの難民キャンプ。表紙には、頭をスカーフで覆った二人の女の子が一足のサンダルを片足ずつはいて仲よく歩いている姿が描かれています。
 名まえは、リナとフェローザ、二人は救援物資の中から偶然同じサンダルを片方ずつ手にしました。リナは戦争で父と姉を亡くし、幼い弟を背負って母親と逃げて来ました。もう2年間も靴をはいていませんでした。フェローザは家族を戦争で亡くし、祖母と二人だけ、その足はひびわれて腫れていました。
 「はじめまして、こんにちは」とあいさつするリナにフェローザはことばを返すことなく姿を消しましたが、翌朝、「かたほうだけはいているなんて へんだって、おばあちゃんが いうの」と言ってリナにサンダルを手渡しにきました。そんなフェローザに、リナがサンダルを二人で交互に履くことを提案します。その日から一足のサンダルが二人の少女の間で「ともだちのしるし」となりました。
 毎日いっしょに並んで水汲みをしたり、地面に字を書いて勉強したり、テントの中で思い出や夢を語り合ったり…、難民キャンプという過酷な環境の下で一足のサンダルを分け合いながら育まれた友情の物語、作者の一人であるカードラ・モハメッド(米国ペンシルヴァニア州のピッツバーグ難民センター所長)の実体験から生まれました。
 遠景の山々の壮大なシーンから、救援物資を求めて並ぶ人々の足、わずかに流れる水、限られた井戸から水を汲む人々がそれぞれクローズアップして描かれ、難民キャンプの極限状況を生き抜く幼い二人の健気な姿がリアルな質感と温もりをもって伝わってきます。アメリカにわたることが決まったリナとキャンプに残るフェローザの別れのシーンは圧巻です。戦争で何もかも失い、疲れ、傷ついたであろう幼い二人の心に宿る確かなやさしさと思いやりに胸を打たれました。

 本書は板橋区立「いたばしボローニャ子ども絵本館」主催の翻訳コンクールで第15回「いたばし国際絵本翻訳大賞最優秀翻訳大賞」を受賞した作品です。翻訳者である小林葵氏は1992年生まれ、受賞当時、現役の高校生でした。リナとフェローザのことばがいきいきと伝わってくるのが魅力のひとつでしょう。英語の原題は「Four Feet, Two Sandals」、たった一足のサンダルを分け合うという二人の純粋な心を象徴しています。「ともだちのしるしだよ」はリナのことば、絵本の邦題としてふさわしいことばではないでしょうか。子ども達に国際理解を促し、戦争と平和について考える機会を与えてくれる絵本です。
 本書は社団法人全国学校図書協議会主催の第56回青少年読書感想文全国コンクール課題図書の小学校中学年に選定されています。日本の多くの子ども達に、戦争によって、友だちや家族とわかれ、故郷をはなれなければならない難民の子ども達のことを心に深く留めてほしいと思います。

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2010年2月28日 (日)

丸田かね子・文/牧野鈴子・絵『はこちゃんのおひなさま』書評(@bk1)

はこちゃんのおひなさま (すずのねえほん No.) Book はこちゃんのおひなさま (すずのねえほん No.)

著者:丸田 かね子
販売元:銀の鈴社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 絵本『はこちゃんのおひなさま』の書評をbk1に投稿しました。こちらです。

 書評のタイトル:おひな祭りにお勧めの一冊~おひなさまを通して、戦争を知らない子ども達に、戦争について考える機会を提供してくれる貴重な物語

 幼いはこちゃんは、おひなさまが大好きでした。
 戦争が激しくなって、本土にも空襲が始まった昭和19年、はこちゃんは遠い親戚の家に疎開しなくてはならなくなりました。大好きなおひなさまを持って行きたいというはこちゃんの願いはかないません。持ち物はわずかな着がえだけ、はこちゃんは親戚のおじさんの家でわがままも言わず、じっとがまんの日々を過ごしていました。
 とうとう熱を出して寝込んでしまったはこちゃんの元に、お父さんとお母さんとお兄ちゃんがおひなさまを持ってやってきました。家族全員とおひなさまがそろってひと安心という時、東京大空襲ではこちゃん一家は・・・。
 危うく戦火をのがれたおひなさまを、はこちゃんは毎年2月になるとかざり続けました。
 十五夜お月さん 母さんに
 も一度
 わたしは逢いたいな
 野口雨情作詞の童謡を歌いながらおひなさまをかざる幼いはこちゃんの姿は涙をそそります。 戦争が終わって60年近い年月が過ぎ、おばあさんとなったはこちゃんは、おひなさまを人形博物館へ寄贈する決心をしました。

 60年の時の流れの中で、画家の牧野鈴子氏が、なつかしい過去と過酷な戦争の記憶、そして、現在の幸せなはるこおばあさんの姿を巧みに描き分けています。おひなさまを通して、戦争を知らない子ども達に、戦争について考える機会を提供してくれる貴重な物語です。戦争を体験した世代の方々にとっては身につまされる物語であるだけでなく、浄化の涙を流すことができる物語ではないでしょうか。幼い子ども達からご高齢の方々まで幅広い年代の読者の心に響く物語ではないかと思います。
 本書に添えられた児童文学作家の日野多香子氏の「戦火の爪あとと、明日への詩」に溢れる児童文学への思いと作品へのあたたかいまなざし、作者である丸田かね子氏のあとがきに至るまで、どれもがすばらしく読み応えのある絵本です。戦争の記憶を風化させないためにも、「はこちゃんのおひなさま」が末永く読み継がれていくことを願ってやみません。
 おひな祭りにお勧めの一冊です。

 

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2010年2月21日 (日)

美しい日本の伝統文化「ひなまつり」『はこちゃんのおひなさま』絵本原画展@銀の鈴ギャラリー(鎌倉)

 今日は鎌倉の銀の鈴ギャラリーで開催中の美しい日本の伝統文化「ひなまつり」『はこちゃんのおひなさま』絵本原画展に行って来ました。鎌倉駅からバスに乗り、荏柄天神社で合格祈願をして、徒歩数分の場所にある銀の鈴ギャラリーへと向いました。

Photo_4  荏柄天神社では三椏の花が満開、梅の花が咲き始め、ほのかに香っていました。樹齢900年と言われている銀杏の木を見上げると、からりと晴れた空が心地よく感じられました。

【大銀杏】御神木の大銀杏です。古い史料によりますと、御由緒にある「天神画像」が天降った地を里人が畏れ、踏まれないように「いちょう」を植えたと記されておりますので樹齢は神社と同じく900年程度と思われます。実際、樹齢1000年といわれる「大いちょう」とほぼおなじで高さが25メートル、胴回りが10メートルの大木です。(荏柄天神社HPより引用)

 ギャラリーでは、牧野鈴子さんの原画が絵本のページと並べて展示されていました。一枚一枚丁寧に描かれています。今回は原作の文面を先に読み、完成した絵本を読んだこともあり、画家である牧野鈴子さんのプロフェッショナルな描き方に感動を覚えました。現実から雛飾りを通して、60年前の戦時中へと時が遡っていくシーンなど絵本の言葉と絵の間合いが絶妙です。

 完成度の高い絵本の原画を見て、清々しい気持ちになりました。

Photo_5  ギャラリーでは原画の他に、おひな祭りの由来を読み、雛飾りを見て、社長さんと編集者の方としばらくお話をさせていただきました。丁寧に、そして、真心を込めて一冊一冊の本を世に生み出していかれていることを感じました。

 阿見みどりさんの万葉野の花シリーズのグッズや絵の展示もすばらしかったです。今度ゆっくり拝見したいと思いました。

 「阿見みどり 水彩画展 万葉 野の花 花と小さな命をみつめて」が下記の通り、開催されます。

期間:3月11日(木)~16日(火)

場所:丸善福岡ビル店 3Fギャラリー

 福岡近辺にお住まいの皆様にお薦めいたします。

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2009年9月12日 (土)

思い出の絵本 No.11 『八月がくるたびに』初版、名作の愛蔵版、新・名作の愛蔵版を再読して思うこと

 小学校4年生の時、夏休みの課題図書で読んだ『八月がくるたびに』を8月9日に再読しようと思って、図書館に予約を入れて、届いた本が記憶に残っている本と絵の雰囲気が違っているような気がして、改めて、図書館から初版(1971年)、名作の愛蔵版(1978年)、新・名作の愛蔵版(2001年)を取り寄せて再読しました。(8月9日原爆を記憶にとどめるためには、こちら。)

Photo 3冊の表紙の写真です。名作愛蔵版1978年から表紙の絵が変わっています。文章(語り)は細かいチェックはしていませんが、同じでした。初版の表紙の強烈な印象が今でも残っていましたので、イラストの雰囲気が大きく変わっています。名作愛蔵版と新・名作愛蔵版のイラストはだいたい同じでした。初版は、全体を通して、やや抽象的で個性的なイラストです。原爆の悲惨さを絵が強烈に語っていることを感じます。どちらのイラストも芸術性は高いものだと思います。Photo_2Photo_3

本を開いて標題のページから、初版は抽象的で強烈な印象が残りますが、愛蔵版→新・愛蔵版へと具体的なイメージになってきていることを感じました。初版は戦後25年目、以後、戦争からの年月を経るにつれて、子ども達に具体的なイメージを提示していく必要があって、描きかえられたのかもしれません。これからの子ども達に長く読み継いで欲しいという願いから、こうした改編がなされたのかもしれません。

Photo_4Photo_5 きぬえちゃんが山下のおばさんに着せてもらった赤いワンピースのイラスト、きぬえときよしの父帰還のイラストです。(いずれも右側が初版、左側が愛蔵版)

長崎の被爆体験を語った児童文学作品として、再版されて30余年・・・原爆を語ったことに意義がある作品でもありますが、物語としてもすぐれているから読み継がれてきたのだと思います。今年の8月9日、40年ぶりに愛蔵版を再読したときには、初版のイラストを懐かしく思う気持ちが強かったのですが、3冊を比べながら再読してみて、イラストの具体化を通して、『八月がくるたびに』の愛蔵版、新・名作愛蔵版に今の子ども達への配慮を感じました。(配慮が成功している例ではないかと思います。)また、新・名作愛蔵版は文字が大きくなって読みやすくなっています。

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