015 荒井良二

2009年2月 7日 (土)

荒井良二さんの絵本の世界 

 荒井良二さんの絵本には不思議な時間が流れています。そして、不思議な、魅力的な主人公が存在します。

 荒井良二さんの絵本の世界は、子どもよりもっと子どもっぽいけれどスゴイ絵、そして、愛に満ちたユニークな言葉・・・。

 あなたも、不思議な猫チマチマやハスカップ、魅力的なはっぴぃさん、不思議なキュートナに会いに行きませんか。

 私のお薦めは、『バスにのって』『モンテロッソのピンクの壁』『はっぴぃさん『ぼくとチマチマ』『いつか、ずっと昔』

 荒井良二さんの公式サイトは、こちらです。

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2009年2月 2日 (月)

荒井良二さんの刻むゆったりとした時間  『バスにのって』

 バスに乗って遠くへいくために、一人でバスを待っている人がいます。

照りつける太陽と小さなバス停
広い空とそよっと吹く風
ラジオから聞こえてくる音楽
トントンパットン
トンパットン
 

 トラックが過ぎ、馬に乗った人が過ぎ、自転車に乗った人が過ぎ、いろんな人が通り過ぎて、夜になりました。バスを待っている人も眠り、ラジオも眠ります。朝になりました。トントンパットン トンパットンとラジオから、再び音楽が流れ始めます。照りつける太陽と小さなバス停、広い空とそよっと吹く風、そして、ラジオから聞こえてくる音楽、それだけしかない世界です。バスは来るのでしょうか。バスに乗って遠くへ行けるのでしょうか。そんなことすら忘れてしまうほど、のんびりとした時間が流れています。

 音楽のトントンパットントンパットンのリズムに乗って、ゆったりとした時間が流れてゆきます。照りつける太陽と小さなバス停、広い空とそよっと吹く風、そして、ラジオから聞こえてくる音楽、たったそれだけの世界ですが、なぜかそんな世界が恋しくなりました。多くのものに囲まれ、多くのことに煩わされて過ごしている内に私たちは、いつの間にか物事を複雑にしてしまったのではないでしょうか。トントンパットントンパットンのリズムに合わせて、単純に時を過ごしてみたらいかがでしょう。

 『バスにのって』は、荒井良二さんの刻む時がゆったりと流れている絵本です。

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猫のハスカップの愉快で、不思議な、奥深い旅の物語  『モンテロッソのピンクの壁』

 ハスカップはうす茶色の猫。体の大きさは中ぐらい、性格は楽天的で、金茶色の目をしています。どこにでも居そうな猫ですが、それが違うのです。小さな洋館の年取ったご婦人に飼われていて、毎日ソファーの上でまるくなって眠っていました。恵まれている猫、そして、怠惰な猫と思われそうですが、それも違います。

 ハスカップには繰り返し見る夢がありました。夢に出てくるのは、それはそれはきれいなピンクの壁。それが、モンテロッソのピンクの壁。「あのピンクの壁のある場所こそ、私がどうしてもいかなきゃならない場所なんだわ。なぜだかわからないけれど。」そして、それが、ハスカップの旅のはじまり。ご婦人の足をひとなめして、港に向かって雄々しく歩き始めるハスカップ。「何かを手に入れるためには何かをあきらめなきゃいけないことくらい、私はよく知っている。」ハスカップは、賢い猫なのです。

 港を過ぎ、気球に乗って、丘を越え、川を渡って、森を抜けて・・・ハスカップのモンテロッソへの旅は続きます。気球研究家や庭師のおかみさん、辻音楽師や運転士に遭いました。屋根を歩き、野原で眠り、市場を横切って、とうとうモンテロッソに着きました。そして、夢の中のピンクの壁にたどり着きました。

 「モンテロッソのピンクの壁」はハスカップにとってどうしても行かなくちゃならない場所だったのです。夢の中のピンクの壁に向かうハスカップの愉快で、不思議な、奥深い旅の物語。読み終えた時、ハスカップの決意が並々ならぬものであったことに気が付くでしょう。

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キュートナって、誰?いろんな楽しみ方ができる一冊の絵本  『ぼくのキュートナ』

 「はいけい。ぼくのキュートナ」で始まるキュートナへの手紙とキュートナへの言葉が対をなす15通の手紙集。

 キュートナって、動かない時計をしている。メガネをするとキリッとしてみえる。あるいてて、急に立ち止まる。よわよわしいけど、ちからもち。へんなぼうしがにあう。さむがりなのに、つめたいものばかり飲む。子どもよりもっと子どもっぽい、絵を描く天才。あれしたい、これしたいって、いつもいう・・・。

 キュートナって、誰?キュートナって、具体的な人物像とか浮かばないけれど、「ぼく」にとって特別な存在だってことは分かる。「ぼく」が心底愛しているってことも分かる。
もしかしたら、キュートナって、荒井良二さん、あなたのことかしら?

 「きみが描く絵ってスゴイね。子どもよりもっと子どもっぽい。天才だよ!」という言葉が胸にキュンと来る。自分の中にいるもう一人の自分にこんな手紙が書けたらいいな。自分のことをこんなに愛せたらいいな。子どもよりもっと子どもっぽいけれど、スゴイ絵と愛に満ちたユニークな言葉、最初は、手紙だけを読んで、次に言葉だけを読んで、その次に手紙と言葉を比べながら読む。そして、絵だけを見る。いろんな楽しみ方ができる一冊。

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何でものろのろの「ぼく」と何でもあわてる「わたし」と一緒に、はっぴぃさんに会いにゆきませんか。 『はっぴぃさん』

 何でものろのろの「ぼく」となんでもあわてる「わたし」は、はっぴぃさんに会いにいきます。二人とも「はっぴぃさん はっぴぃさん どうぞぼくの(わたしの)ねがいをきいてください はっぴぃさん!」と言いながら、ぼくは、のろのろと、わたしは、あわてて、はっぴぃさんに会いにゆきます。
 ぼくとわたしはどこの国の子ども達でしょうか。中南米あたりの子ども達のような服装をしています。山に入るまでは、ぼくの歩く場所は、のどかな田園風景ですが、わたしの歩く場所は、戦火の町のようです。戦車も見えます。一体どこの国でしょうか。

 山に入ると、川のそばにすずらんが咲いています。蝶も飛んでいます。かえるが池の中を泳いでいます。季節は、春から初夏あたりでしょう。ぼくは、山の入り口で、川を見つけて、はらばいになって川を見ています。わたしは、あわててバスを降りてかけだしたので、靴が脱げて川に流されてしまいました。その靴を見つけたぼく、「それ わたしの」と言って、ぬれたまま靴をはいたわたし。ぼくは、のろのろ、わたしはどんどん山をのぼってゆきます。そして、山の上の大きな石の端と端に座った二人。

 わたしの中をどんどん流れる時間、ぼくの中をのろのろ流れる時間。絵本の中の太陽が山の上の二人を照らし、山のふもとの戦車を照らしています。子どもより子どもっぽい絵と子どもより子どもっぽい文字が何とも言えず素敵です。子どもより子どもっぽい絵の中に、現実世界が象徴されているようです。そして、表紙の太陽と二匹の白い鳩や蝶、すずらんの花に、作者の希望が込められているように感じます。
 どこかの国のどこかの山の大きな石の上で、二人は、はっぴぃさんに会えるのでしょうか。何でものろのろの「ぼく」と何でもあわてる「わたし」と一緒に、あなたも「はっぴぃさん」に会いにゆきませんか。

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朝の目覚めの時をこんな風に迎えてみたいな  『ぼくとチマチマ』

 昨日猫を拾ったぼく。そのぼくと猫に夜明けがやってきて、そして、朝が訪れる。
たったそれだけのお話です。たったそれだけのお話ですが、絵本の中の時を鳥や小さなたいこやラッパや大きなたいこやアコーディオンが刻みます。夜明けが刻む時間は、ぼんやりぼんやり。とりは、ピーピーピーピー。小さなたいこはトントントン。ドーン ドン ドーン ドン。
 絵本の中の町は、モスクやバザールが描かれていますので、中近東の町でしょうか。人が来て、小鳥が来て、ろばが来て、くるまが来て、ミルクを運んで来る牛、誰も乗っていないバス、汽車がやってきます。朝の町は、どんどんにぎやかになります。
町はどんどん どんどんと時を刻んでいます。
 ぼくは、昨日拾った猫にチマチマと名づけました。絵本の中の時間がユニークに刻まれてゆきます。猫はチマチマと時間を刻んでゆくのでしょうか。朝の目覚めの時をこんな風に迎えてみたいなと思いました。荒井良二さんの描く不思議な時間と空間で朝を迎えてみませんか。

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2009年1月30日 (金)

夜桜の花のアーチがまさに異界に開かれた門のよう・・・大人のあなたにお薦めの絵本 『いつか、ずっと昔』

 結婚を控えたれいこと浩一が夜桜見物に来ました。
 見渡すかぎりの桜、濃紺の闇に、つめたいほど白い花がしんとしずまりかえってさいています。風が吹くたびに花びらがこぼれます。浩一の腕にもたれて、うっとりと夜桜をながめるれいこに、次々と現れる過去の恋人たち。木の根のかげから、しゅる、と音がして現れたもの。木々の間をうろうろと動き回っていた白くて、まるく太ったもの。豚舎の入り口に、うしろから月光をあびて、ちょこんと立っていたもの。
 桜の幹から養豚場、海を経て、再び花びらの中に立つ浩一のもとに戻ってきたれいこ。れいこは、浩一の腕にしがみつきながら、「さよなら」と昔の恋人たちに、そっと告げます。さて、れいこの恋人達とは・・・。
 

 『つめたいよるに』収録の「いつか、ずっと昔」を底本として描き下ろされた絵本です。荒井良二さんのユニークなイラストが江國香織さんの物語の世界を幻想的に彩っています。夜桜の花のアーチがまさに異界に開かれた門のようです。

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