010 江國香織

2009年2月 2日 (月)

猫のハスカップの愉快で、不思議な、奥深い旅の物語  『モンテロッソのピンクの壁』

 ハスカップはうす茶色の猫。体の大きさは中ぐらい、性格は楽天的で、金茶色の目をしています。どこにでも居そうな猫ですが、それが違うのです。小さな洋館の年取ったご婦人に飼われていて、毎日ソファーの上でまるくなって眠っていました。恵まれている猫、そして、怠惰な猫と思われそうですが、それも違います。

 ハスカップには繰り返し見る夢がありました。夢に出てくるのは、それはそれはきれいなピンクの壁。それが、モンテロッソのピンクの壁。「あのピンクの壁のある場所こそ、私がどうしてもいかなきゃならない場所なんだわ。なぜだかわからないけれど。」そして、それが、ハスカップの旅のはじまり。ご婦人の足をひとなめして、港に向かって雄々しく歩き始めるハスカップ。「何かを手に入れるためには何かをあきらめなきゃいけないことくらい、私はよく知っている。」ハスカップは、賢い猫なのです。

 港を過ぎ、気球に乗って、丘を越え、川を渡って、森を抜けて・・・ハスカップのモンテロッソへの旅は続きます。気球研究家や庭師のおかみさん、辻音楽師や運転士に遭いました。屋根を歩き、野原で眠り、市場を横切って、とうとうモンテロッソに着きました。そして、夢の中のピンクの壁にたどり着きました。

 「モンテロッソのピンクの壁」はハスカップにとってどうしても行かなくちゃならない場所だったのです。夢の中のピンクの壁に向かうハスカップの愉快で、不思議な、奥深い旅の物語。読み終えた時、ハスカップの決意が並々ならぬものであったことに気が付くでしょう。

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2009年1月30日 (金)

夜桜の花のアーチがまさに異界に開かれた門のよう・・・大人のあなたにお薦めの絵本 『いつか、ずっと昔』

 結婚を控えたれいこと浩一が夜桜見物に来ました。
 見渡すかぎりの桜、濃紺の闇に、つめたいほど白い花がしんとしずまりかえってさいています。風が吹くたびに花びらがこぼれます。浩一の腕にもたれて、うっとりと夜桜をながめるれいこに、次々と現れる過去の恋人たち。木の根のかげから、しゅる、と音がして現れたもの。木々の間をうろうろと動き回っていた白くて、まるく太ったもの。豚舎の入り口に、うしろから月光をあびて、ちょこんと立っていたもの。
 桜の幹から養豚場、海を経て、再び花びらの中に立つ浩一のもとに戻ってきたれいこ。れいこは、浩一の腕にしがみつきながら、「さよなら」と昔の恋人たちに、そっと告げます。さて、れいこの恋人達とは・・・。
 

 『つめたいよるに』収録の「いつか、ずっと昔」を底本として描き下ろされた絵本です。荒井良二さんのユニークなイラストが江國香織さんの物語の世界を幻想的に彩っています。夜桜の花のアーチがまさに異界に開かれた門のようです。

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