006 ジミー・リャオ

2009年2月 7日 (土)

台湾の作家ジミーさんの描く場所〜光と影が交錯する中で、人の孤独が美しく描かれている  『君のいる場所』

郊外の古いアパートの隣に住んでいる彼女と彼
 彼女は、どこへ行くにも左へ曲がる癖がある
 彼は、どこへ行くにも右へ曲がる癖がある
 隣に住んでいる彼女と彼が会うことはなかった

 彼女は、悲しい小説を翻訳している
 彼女は、ときに、世界は悲しみにあふれた場所だと感じる
 彼は、ヴァイオリンを弾く
 彼は、ときどき自分がからっぽで無力だと感じる

 ふたつの平行線が天使の力で交わった
 公園の噴水の前で出会った彼女と彼
 胸躍る午後を過ごしたふたり
 大粒の雨の中、電話番号のメモを交わして別れた

 雨ににじんで見えなくなった文字
 左に曲がる彼女と右に曲がる彼と
 隣に住んでいても
 ふたりは会えない

 壁のない牢獄のような都会
 疲れと閉塞感の中で
 つかの間の思い出がきらめいている
 彼女と彼が確かにいた場所

 ふたりで過ごした午後の思い出とともに
 季節が巡る
 季節の中で揺れ動く彼女と彼の心
 人を想って揺らぐ心は、切なく悲しく美しい

 光と影の交錯する中で
 人の孤独が
 美しく描かれている
 台湾の作家ジミーさんの描く美しい場所

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悲喜こもごもの思い出の一瞬をとらえた詩情あふれるメモリー集、人生に対する深い洞察が切なく、美しい絵本  『メモリーズ』

 台北の絵本作家ジミーさんが、描いた60枚の絵のメモリー集。

 おとなになる前に許されるつかの間の無邪気を描いた「天より高く」
 美しい浜辺でのままならない人生の始まりを描いた「小さな始まり」
 先生に言えなかったひと言を描いた「秘密」
 雲の言葉はわからなくても見ているだけで楽しくなれたあのころを描いた「耳をすませば」などの絵がおさめられている。

 あとがきに「写真を撮る前後の面白さを捉えようとしたもの」「「作品を描くこと」そのものが過去を思い出すヒントとなった」と書かれている。
 悲しみには、ユーモアが、楽しさの中には滑稽さが、悲喜こもごもの思い出が、美しく描かれている。ジミーさんの絵もすばらしいが、絵に添えられている詩情あふれる言葉に、人生に対する深い洞察が込められている。
 写真では、とらえられない思い出の「一瞬」に満ちている。私も、私だけの思い出の一瞬をとらえてみたい。

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人間の根源的な孤独が、美しいイラストと洞察に満ちた言葉で描かれている絵本 月とで出会った孤独な少年の物語  『君といたとき、いないとき』

 夜の町は人工の照明にあふれています。夜の闇を照らす月は、孤独なのかもしれません。昼を照らす太陽は、植物の光合成、温度の確保のために科学文明が発達した現在も人間から実質的に必要とされています。夜を照らす月は、どうでしょうか。
 月は美しい。月は、昔も今もその美しさゆえに人の心を照らしているのかもしれません。もし、その月が姿を消したとしたら…どうなるでしょうか。

 孤独な月が、孤独な少年のもとにやってきました。偶然のようで、必然の出会い。人工の月があふれる町で、本物の月と出会い、孤独な少年の心は癒されてゆきます。月とともに過ごした記憶は、時の流れの中で、少年の成長とともにどのように変容してゆくのでしょうか。
 月は僕だけの月だったはずなのに、空に帰った月は、世界中のみんなを照らしています。「ひとりじゃないよ」と教えてくれた月のそばに行きたいと思うのが人情でしょう。「ひとりじゃないよ」と教えてくれたのが、もし、人間の誰かだったら、少年の孤独は、もっと違った形で癒されていたのかもしれません。

 『君といたとき、いないとき』は、人間の根源的な孤独が、美しいイラストと洞察に満ちた言葉で描かれている絵本です。見えなくても存在する、記憶が薄れても確かに存在する大切なものが、この世の中には存在することを教えてくれます。

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人間の孤独、運命、そして、本当の人間のやさしさとは何かを考えさせられる絵本 『ほほえむ魚』

 ぼくは、ぼくだけにほほえむ魚に出会った。魚は、いつもぼくを待っていた。じっと見つめるぼくだけのまなざしを。ぼくは、ぼくだけにほほえむ魚を小さな水槽に入れて、家につれ帰った。「犬のように忠実で、猫みたいに心がかよい、恋人のように愛しい魚」とぼくの生活が始まった。

 眠ったはずの魚は、水槽ごと緑色に輝きながら、空中を漂ってゆく。ぼくは、あわてて追いかける。魚のあとを追って、真夜中の通りをさまようぼく、幼い頃踊ったダンスのステップを思い出したぼく、木立の中でかくれんぼをするぼく、朝露でズボンが濡れるまで草むらを歩くぼく、緑色に輝く魚といっしょに大海原を仲良く泳ぐぼく…。大海原を自由自在に泳ぎ回って、ぼくは、はっと気がついた。「ぼくも大きな水槽に囚われたちいさな魚だったんだ」と。
 めざめたぼくとほほえむ魚のその後は…。

 『ほほえむ魚』は、「犬のように忠実で、猫みたいに心がかよい、恋人のように愛しい魚」とぼくの不思議な物語です。人間の孤独と運命を幻想的で美しい絵とユーモラスな語りで綴った物語、自分の孤独と運命から目をそらさずに向き合った作者だからこそ綴れる物語ではないでしょうか。人間の孤独、運命、そして、本当の人間のやさしさとは何かを考えさせられます

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台湾の絵本作家ジミー・リャオが贈る癒しと勇気のメッセージ集  『君をみつめてる』

『君をみつめてる』は、台湾の絵本作家ジミー・リャオの60篇の詞と絵が収められたメッセージ集。猫や小鳥、うさぎや熊など動物と人間が関わる姿が、それぞれの言葉と対をなすように描かれていて、60篇の寓話を読むように愉しむことができます。

最低の絶望のなかにいるあなた、夢と現実のあいだをさまよっているあなた、そして、不条理を抱えているあなた、最初の一歩をどう踏みだせばいいのかわからないあなた、そんなあなたの心に沁みるメッセージ。
希望の井戸
リンゴの木の下で
相対論
偏屈…など

台湾の絵本作家ジミー・リャオが贈る癒しと勇気のメッセージ集。ジミーの言葉は、美しく清らかな一輪の花をあなたの心に届けてくれるでしょう。そして、あなたにしかできないこと、あなただけの幸せがあることをさり気なく教えてくれるでしょう。

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